亀井静香さんのお話を聞いた話

亀井静香さんのお話を聞いた話

はるか昔の話。

今日は、天地が争乱するような不可思議ないきさつによって、亀井静香さんと会うことになった。だいたい、政治関係者に関係を持つということなど、人生の駆け出しにしか過ぎない私にとって、ほとんどあり得ないことだ。それが先輩の紹介によって、政界と私の世界が、たとえホンのつかの間でも結びついた。喫驚なことだ。

永田町に着いたのが四時。夕暮れが昼という舞台役者を、その舞台から押しやるのには十分な時間だった。私は永田町の駅を出て、すぐのところで先輩が現れるのをしばし待ち、弾む心を静かに落ち着けていた。ものの十分とたたずに、先輩は現れ、私を自民党会館に案内してくれた。

自民党会館という建物は、一国を牛耳っている政党のビルとしては申し分のないほど、堂々としていた。一歩踏み入れるだけで、私はビルの威厳とした中身に圧倒され、建物の権威にでさえ心押されてしまった。

中に入り、エレベーターで五階に進む。五階に降りると、私は腰のあたりの高さの筒状の灰皿に目が行った。なんともない灰皿を見ると、私の、建物の威風に怖じけついていた心は、平静さを戻していった。普通の企業のオフィスと変わらないような気がしたからだ。すくみ上がって、緊張していた私が去り、いつもの無自覚で気ままな客観主義者な私が現れた。

エレベーターからまっすぐに進み、私は会議室のようなところに案内された。そこには円卓があり、学校で使われているような鉄製のイスと、すでに腰掛けている人間たちが存在した。私は先輩に言われるままに、イスに座り、荷物を肩から下ろした。鉄製のイスは座り心地があまり良くなく、私の腰は痛んだが、文句を言う間もなく、亀井静香さんが現れた。

亀井さんは、教室に入ってくる担任の先生のように当たり前に、初対面の人ばかりが並んでいる部屋に入ってきた。私たちはそれと同時に、すくっと立ち上がり、亀井さんの登場を見つめた。そして、取り巻きの人に大きな声で話し、高らかに一つ笑ってから、円卓の先の議長席に向かった。自分の席の場所に着くと、みんなに挨拶をし始めた。もちろん、ごく普通の挨拶で、学校で朝のホームルームを受けているような感じだ。そして、私たちは一応の挨拶の後、座り心地の余りよくないイスに再び腰を落とした。

挨拶の後、亀井さんはいよいよお話を始めた。亀井さんの話を真剣に聞こうと思った私は、視線を亀井さんの顔にぶつけた。すると、亀井さんの後ろに、なにやら仰々しく黒い文字の浮かんでいる垂れ幕が掛けられていた。よく見ると、そこには”自民党学生部”と書かれてある。そこで、私は初めて気づいたのだが、この会は自民党の学生部の集まりであったのだ。これには、頬をつままれるような気がした。自民党と縁もゆかりもない私が、亀井さんの前ではとりあえずの、自民党学生部の部員となっている。この場だけなのだから、別になんということはないのだが、何かすんなりいかない。不可思議な気分だった。

お話の最中、私は亀井さんの話し方、雰囲気をつかもうと、じっと亀井さんの様子を見ていたのだが、亀井さんの手はいっこうに手遊びを始めなかった。大勢の前で話をする人の中には、手遊びをして気持ちを落ち着けようとする人や、無意識に手遊びをしている人がいる。あれはだらしがなく、いい加減に話をしているように見えるのだが、亀井さんにはそれが全くなかった。むしろ、手を有効に使って、話を展開させる、わかりやすくさせる道具として用いていた。さすがに一流の政治家である。話をするコツを知っていると、私は舌を巻かざる終えなかった。

だが、もちろん、亀井さんにも手遊びのような無意識的行動があった。それはネクタイで、口の周りを拭くという行動だ。見ていて、不快感を発生させるようなものではなかったが、人間的なその行動に、私は笑みを浮かべた。

部屋の暑さのせいと、次の予定に迫った時間のせいで、亀井さんの話にうんざりしていた頃。私は面白いことを発見した。亀井さんがアメリカに付和雷同するなという話をなさっている横で、自民党の学生部の部長みたいな人が、ふんふんと首を振っては、へらへらと笑っていることがとてもおかしかった。自分の意見を持てと、隣で亀井さんがおっしゃっているのに、その横で、頷きながらも、その話の趣旨と、方向違いもいいところの迎合をしている人間がいることがおかしかったのだ。こういう人間がいる限り、この先の自民党は怪しいものだなと勝手な見切りをつけて、腕を組んでいた私は深く頷いた。

亀井さんはお話を終えると、私たちに質問を取り、一つの質問に答えなさると、不思議の国のアリスに出てくる時計を持ったウサギのように、あわただしく部屋を退出なさった。それを見届けると同時に、私も時計を持ったウサギを追いかけるアリスのように、そそくさと部屋を出ていった。

雰囲気も話し方も、とても気さくで柔らかい物腰で話していく亀井さんの様子を思って、私は有楽町線で池袋を目指していた。今日の出会いで、私は亀井さんに少し好意を持った