オンライン青春小説「国道302号線を歩く」end

オンライン青春小説「国道302号線を歩く」end

何本も大きな通りが横たわっている。その先に建物がある。僕の前を横切る車のヘッドライト。闇の中で、その光がれんが造りの大きな建物をくっきりと浮き彫りにしてくれる。明るい、巨大なその建物。その建物の中へ、誰も彼もが吸い込まれるように入っていく。ここが東京駅だ。みんなの出発と終着の駅、東京駅だ。僕にとっても、この東京駅が新宿からの遊歩行の終着駅だ。ここから電車に乗り込む。僕が歩くことなく、僕を僕の住む街に送ってくれる。

感慨深かった。長い長い靖国通りを歩き通した。たったそれだけのことがとても感慨深かった。他の人から見たら、時間の浪費としか思えないこの行動。しかし、僕にとっては、楽しい時間でとても有意義な時間だった。振り返れば、色々なことに悩んだ道中だった。知佳のことを悩み、時間について考え、やるせなさを背負った道中だった。それが今、ここに終わるのだ。最初持っていた荒んだ心も嘘のように消えている。もちろん、消えた理由はわかっている。楽しかったから。それだけだ。

 

東京駅がだんだん大きくなっていく。グングングングン、僕が東京駅に近づいているからだ。一本一本通りを横断するごとに、東京駅のあたたかい照明に近づいている。もはや、ここには飲み会や新宿を楽しめなかった僕はいない。靖国通りを歩き終え、楽しさで心が充満している僕がいるだけだ。アスファルトから跳ね返る足の振動がとても大きい。車のエンジン音さえ、頭の中へすーっと入っていく。

と、急にPHSが震えだした。オレンジ色のディスプレイに、黒い文字の”メール受信”がくっきりと映し出された。あわてて、僕はPHSを操作する。

<イマドコ? チカ>

<ナンデ? ヒデ>

<シンジュクニイルカラ アオウ チカ>

僕の心は高く弾んだ。会いたかった人に会えるのだから。当たり前のことだ。

PHSを左手でギュッと掴むと、一目散に東京駅へ向かいだした。さっきよりも速い足取りで、僕は東京駅へ歩き出す。だが、心はせき立てた。早く、知佳に一秒でも早く会いたい。だから、僕は目の前の東京駅に駆け出した。両手を思いっきりふって、大きく走っていった。

自動販売機で160円の切符を買って、改札所をさっそうとくぐり抜けた。駅の構内も走った。中央線高尾行きのホームを見つけ、僕はエスカレーターを駆け上った。運悪く、電車はまだ来ていない。ホームを新宿側に歩き、空いているベンチを探した。こちらは運良く好いていて、ほとんど人が座っていない。僕は久しぶりに腰を下ろした。

電車が来る前に知佳にメールを打とう。僕は左手に持っていたPHSを持ち替えた。

<15フンゴニ アルタマエデ ヒデ>

送信し終えると、僕は肩で息をついた。さっき知佳からメールがあってからずっと心が躍り続けていた。そして、ここまで走り通しだった。だから、疲れてしまったのだろう。落ち着いてきたようだ。息もあがっている。僕は自分の呼吸が苦しくなっていることに初めて気がついた。

しかし、面白いものだ。東京駅まで歩いたというのに、結局戻るのか、新宿へ。あの、僕が今日楽しめなかった街へ戻るのか。歩いてきた意味がなくなるかも知れない。ふと、そんな思考が頭をよぎる。だが、それはもちろん…。

軽く一蹴される。これからも、ここまでも僕の行動に意味のないものなんてない。全てあるがままに意味があり、あるがままにその意味を受け取らなければならない。新宿から東京まで歩いたことも、これから新宿に戻ることも。全てが全て、その行動のあるがままに意味があるのだ。その意味をひねくれて受け取ってはいけないのだ。

 

そういえば、靖国通りは、僕にとって、どんな意味があるのだろう。ただ、国が作った道路で302番目にできた車線というだけなのだろうか。

 

さっき見たオレンジ色の車両がホームに入ってくる。電車がもたらす風は強く、前髪をあおる。前髪を抑えながら、僕はベンチを立ち上がった。すると、引っ張られるように立ち眩んだ。地球がぐるぐる回りだし、画面いっぱいに暗闇が訪れる。少し疲れたようだ。電車の中では考えるのを止めて、少し眠っていよう。知佳のことを思って…