オンライン青春小説「国道302号線を歩く」1

オンライン青春小説「国道302号線を歩く」

この小説は、自主作成映画の原作として作られました。そのため、前作「雨」同様に、情景描写に凝る形となっています。

主人公の新宿から東京までの道のりを背景に、若い心の動きを情景豊かに描いていきます。

しかし、この作品でもやはり重いのは、主人公の心理です。心の動きをつぶさに描くという形を試みました。テーマは”時間を素直に受け取り楽しむ”ということです。時間という儚いものを選んでテーマとしました。

オンライン青春小説「国道302号線を歩く」1

18時の夕日が新宿のホームに降り立った僕に射し込んできた。差し込んだ瞬間は目を閉じてしまうほどまぶしかった。だが、それは一瞬だった。気にかけることもなく、ホームから東口へ下りる階段を探した。

色黒の額や頬から、イヤホンをしている耳からも。大粒の汗が滴る。クーラーの効いた電車内では嘘のようにかかなかった汗が顔中に戻ってくる。汗をハンカチで拭きながら、頭の中に流れ込んでくるGLAYの『ここではない、どこかへ』を聞き続ける。時折、歌詞が頭の中から飛んでいく。それこそ、ここではない、どこかへ。僕はそれを集中して聞いていないからだと思う。あながち、それは間違っていない。けれど、なんとなくではあるが、聞いていないから歌詞が飛ぶのではないことがわかっていた。

駅から出ると、夕日は体中に重い熱を浴びせかけてきた。一変して苦い顔になり、足取りが遅くなる。体はその熱に反応して、さっきよりも一段と激しい新陳代謝を行い始めた。背中に白のサテン生地のシャツがまとわりつき始めた。

もっとも、暑いのは夏のせいだけじゃない。ここ新宿は人が多い分、余計に暑くなる。地面がアスファルトだらけであることも、僕に洗濯機一台分の汗をかかせる原因だろう。

こんな日は新宿のような都市に来たくない。来たとしても、あまり外を出ているべきではない。クーラーの効いた室内で、大好きな知佳とアイスティーを飲んでいる方が心地よい。今の状況は、快適な状況とはまったく反対だ。あまり口を聞いたことのない人たちと、酒を飲みたくもないのに飲みに行く。しかも、そのためには炎天下の中、全員が揃うのを待たなければいけない。乗り気ではないのだから、足取りが遅いのは仕方がない。

アルタの前に行くと、ゼミの仲間が4,5人すでに集まっていた。みんな、この暑い中、ずっと日に当たって待っていたようだ。それぞれハンカチやタオルを手に持って、だれた顔で話をしている。僕は皆に来たことをアピールするために、ここのところよく話している斉藤さんの所へ行った。斉藤さんは目を細めて眉に皺を寄せていた。夏にうんざりしたような顔だった。道路端のチェーンに寄りかかりながら、斉藤さんは僕に気づいてくれたらしく、低い声で挨拶をしてくれた。僕は挨拶のように暑いねと答えた。そうだねと言いながら、斉藤さんは手で顔を扇いだ。

アルタの奥の方で元気に談笑をしていた後輩たちが僕に気づき、口々に挨拶をし出した。後輩たちの挨拶は元気で、軽やかだった。頭を下げると、すぐに元の位置に頭を戻していた。声にも張りがあり、語尾がはっきりしていた。

 

刹那、僕は自分の老いを感じた。たった一年しか違わないのに、なぜか自分が後輩に比べて十年ぐらい年をとっているような気がした。今の彼らのようなことを、今の僕に要求されてもなかなかできない。

 

後輩たちの挨拶に頭を下げて返礼をしてまわり、僕は斉藤さんの所へ戻ろうとした。しかし、遠巻きに見た斉藤さんは暑さで、その活気を失っていた。顔をしかめて、時折ハンカチで汗を拭く以外、まったくと言っていいほど体を動かしていない。なんだか僕は近づきたくなくなった。近づけば、そのダレに引き込まれそうな気がしたからだ。今でも十分活気を失っているというのに、それ以上にへたってしまいそうだ。