オンライン青春小説「国道302号線を歩く」2

オンライン青春小説「国道302号線を歩く」2

そこでまわりを見渡して、話をする相手を捜した。後輩以外で元気なのは黒木だけだった。しかし、黒木は遅刻気味の他のメンツに連絡を取っていて、話しかける状態ではなかった。後輩たちは後輩たちで固まって楽しそうに話しているので、そこに割り込む気にはなれなかった。若さの壁に阻まれている。そんな感じだ。

仕方なく、誰も近くにいない街路樹に近寄り、僕は黒の手提げ鞄を地面に下ろした。熱を吸収した鞄は暑くなっていて、鞄から取り出した手帳も熱を持っていた。

シャツの胸ポケットから黒のボールペンを取り、僕はこの状況を書き残そうと思った。いつか、この煩わしい夏を思い出すためには丁度いい記録になる。そこで、僕はまず新宿の空を見渡した。

 

今日の新宿の空は、とてつもなく低かった。雲が低空飛行している。しかも、その雲は誰かに平たく伸ばされたように薄く広かった。だから、太陽光は差し込んでくるし、いつも以上に蒸すのだ。不快指数を誘う雲とは、このような雲を言うのかもしれない。

しかし、こんな新宿の空は滅多に見ない。空が低すぎて、まるで室内にいるようだ。イクスピアリやビーナスフォートの天井に似ている。人工の空のようだ。そう思うと、これ以上空を見続けることはできなくなった。明日には変わるとわかっていても、なんだか空が安っぽく感じられる。たったそれだけで、僕は居たたまれなくなったのだ。空を記録することを止め、僕はかつて自分が手帳に書いた文章を読むことにした。まだその方ががっかりしない。

 

知佳のことや知佳と一緒に行った喫茶店のことが書いてある部分を読む。汚い文字ではあるが、楽しそうな文章が書いてある。知佳という文字が踊っているだけでも、十分知佳にメロメロな自分がわかる。けれど、今そばに知佳はいない。読んでいるうちに、だんだんとセンチメンタルになってきた。会いたくなってきたし、せめて声が聞きたくなってきた。そこで、僕はPHSをズボンのポケットから取り出し、メールを打つことにした。今、知佳がどこにいるのか。バイトに行くと言っていたが、何時までだったろうか。ひょっとしたら、終わっているかも知れない。もし、そうならすぐにここから離れて、知佳の所へ真っ直ぐ行こう。知佳と話そう。静かで涼しい喫茶店で、知佳の大好きなアイスティーを飲みながら、知佳には抱えきれない愚痴をいっぱいいっぱい聞こう。

<イマドコニイル? ヒデ>

 


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