オンライン青春小説「国道302号線を歩く」4

オンライン青春小説「国道302号線を歩く」4

座敷を見渡した結果、奥の方で空いている席を見つけた。四つある卓の中で、壁側の上座がぽっかり空いている。僕は上座に座ることにした。特に礼を払う人もいないので、自分がそこに座っても何の問題もないからだ。荷物を自分の体の左側に置いて、どっかりとあぐらを組む。すると、目の前に二人の後輩が並んでやってきた。そのどちらも何度か見た顔だが、あまり話したことがない。一人は無精ひげをまばらに生やした男で、無地の白いTシャツに青めのジーパンという格好だった。一見中年にも見えるほど、肌に艶がなかった。もう一人の後輩は肌が荒れていて、所々にニキビの跡があった。着ているシャツの中央には、”SURPRISE”と黒い文字が印刷されている。そんなシャツをデートに着てこられた日には、女の子の方が驚いてしまうだろう。どちらもあまり社交的なタイプではないらしく、僕の前に座っても、まったく顔を上げず、机ばかりを見て話をしていた。僕の右側に座った与田は言葉少な目な人間で、日頃もあまり口を開かない。僕の隣に座るなり、周りを見渡して飲み会の傍観者になりきっていた。僕は与田のそんな顔を見て、あくびをしたくなった。

すぐに、瓶ビールが運ばれてきた。冷たいらしく瓶が汗をかいている。僕は瓶を左手に持って、右手で前に座る後輩2人のコップを引き寄せた。そして、なみなみと注いだ。溢れそうになるほどは注がなかったが、一杯目の乾杯用のビールだからコップを満たすぐらいが丁度良い。何も言わずに2人の前にコップを差し出し、僕は自分のコップにもビールを注いだ。あまり飲む気がしないので、瓶を高めに持ってコップに注ぎ込んだ。泡の背を高くして、実際に量が入っていなくとも、量が入っているように見せかけたいのだ。

僕がビールに小細工をしているうちに、全員にコップが行き渡り、全てのコップに白い泡が入っていた。その様子を見た黒木が音もなく立ち上がり、乾杯の音頭をとった。みんなコップを肩より少し高く上げて、乾杯の姿勢をとる。黒木の挨拶が終わるや否や、すぐにコップとコップがぶつかり始めた。乾杯。そんな言葉が各テーブルで発せられる。僕も前の後輩2人も、与田も乾杯をした。

乾杯のビールは一気に飲み干す。これが僕のパターンだ。ビールは喉で飲むものだと思っているからだ。だから、自然僕のコップはすぐに空になる。もっとも、飲み会でコップを空にしておくわけにはいかないので、すぐに手酌でコップにビールを満たす。二杯目はそんなに口をつける気がなかったので、適当に泡と液体とを注いだ。注ぎ終えると、僕は前にいる二人に話しかけた。何も話さないのでは芸がないし、失礼だと思ったからだ。しかし、二人ともありきたりの解答しかせず、少しも面白くない。暇つぶしにもならない。割り箸を使って、二人の鼻からその脳を引っぱり出したくなった。与田は与田で相変わらず、黙っているので話し相手にもならない。あまりのつまらなさに、僕は手帳に書きかけだった読書感想文の続きを書き始めた。

一、二行書き始めたところで、PHSがズボンの中で震えだした。PHSを取り出して着信を見ると、知佳からのメールだった。明るい照明のついた部屋の中で、PHSのディスプレイはオレンジ色に輝いている。

<イマ バイトオワッタ チカ>

メールを打ち返す。

<コレカラアオウ イマシンジュク>

少しのどが渇いたので、僕はビールを口に運んだ。ビールはのどをひんやりとさせてくれる。もう一口飲むと、コップを机に置いた。すると、またPHSが震えだした。

<ムリ コレカラトモダチトゴハン>

 

PHSのディスプレイに浮かぶ文字には、キレイなほどに棘があった。声で聞くのとは全然違う。たぶん、知佳が声で答えてくれていたら、僕はそんなに呆然とはしなかっただろう。カタカナだけの、20字と制限されたPHSのメールでは、知佳の様子は伝わらない。メールじゃなくて、声でその返答をしてくれればいいじゃないか。知佳は棘のある返答をする人間ではない。それはわかっている。けれど寂しかった。僕には、どうメールの返事を出していいのかわからなかった。気持ちをそのまま送ればいいのか。電話で粘ってみるべきなのか。このまま、楽しんで来いよと答えるべきなのか。即座に答えは出なかった。

ふと横を見ると、ビール瓶の汗が机を濡らしている。机の上が意外にも水浸しだった。僕は机備え付けのペーパーで机を拭こうと思ったが、いざやろうとしたが、机を拭く気になれなかった。

 

思えば、最初にこの部屋に入ったときに感じた違和感とは、これだったのかも知れない。人を無気力にさせる寂寥感。僕はこの部屋に漂っていた寂寥感を感じて、この部屋に違和感を感じたのかも知れない。