オンライン青春小説「国道302号線を歩く」5

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オンライン青春小説「国道302号線を歩く」5

しかし、飲み会の場で冴えない顔をしているのも悪いだろう。場の雰囲気を崩す。そう思い直して、自分に寂しくない、楽しいんだと言い聞かせた。そして、何もかもを飲み込むように、ビールを一気にあおった。のどを通り、胃に行き着いた瞬間に、僕は久しぶりにビールの苦さを感じたような気がした。瓶を取ると、僕は空になった自分のコップに投げやりにビールを流した。そして、続けざまにビールをあおった。これをやけ酒と言わないで、何をやけ酒と言おうか。まさにそんな状況だ。

前にいる二人は相変わらず面白味のない話をしている。連続性がなく、話題がすぐに飛ぶ。ゲームの話をしているかと思うと、近所にいるらしい野良ネコの話、家で飼っているペットの話。しかも、どの話にも落ちも突っ込みもない。言葉が絶えたら、互いにうつむいて黙り込む。

その後どうするのかと見ていると、毛の生えた手で割り箸をつかみ、猛烈な勢いでつまみを浸食していった。割り箸を泳がせては、ハムをつまみ、ドレッシングに浸ったレタスをつまむ。ドレッシングがこぼれているのに、少しも気づかずに。彼ら二人の机は食べ落としたハムのかけらや、ドレッシングのしみなどで満ち満ちていた。それでもなお、自分の卓の分を食べ終えると、隣の卓、後ろの卓。まるで食べるために生きているように。見ているだけでも、僕はイヤだった。卑しいという言葉がすぐに脳裏に反映した。酒の酔いも助けて、僕の不愉快という感情は高まるだけ高まっていった。おそらく、日頃なら、カラスが残飯をあさっているなぐらいにしか思わないだろう。けれど、目前で繰り広げられている”食う”という行為が、今は許せなかった。何度も膝をつねり、怒りを帯びてきているその体を押しとどめた。

二人をたしなめようかと何度も思った。しかし、今の僕にはそんなことはできなかった。ビールを注ぐ、飲む。この行為をするだけで、いやこの行為を通して、飲み会に参加している体勢を作ることが僕にできることの限度だった。それさえも崩れかけていた。感情を抑えるので精一杯だったのだ。

卓上の灰皿はタバコの吸いかすと灰でいっぱいだった。僕が何本も何本も吸っていたからだ。チェーンスモーカーみたいに、僕は次から次へと吸っていった。時々、もう止めようと思う。だが、なかなか止められない。

柱にかかっている時計を見ると、飲み会が始まって一時間ほどが経っていた。僕には長い一時間だった。これから一時間もあるかと思うと、ゾッとする。たまらない。この場所から早く逃れたかった。対称的に、黒木の大きな笑い声が聞こえてきた。愉快に”いつもなら”短い一時間を過ごしているように見える。黒木の方を向くと、確かにそこには笑顔の黒木がいた。後輩二人と同輩二人を相手にいつもの調子で、鮮やかな。そう、鮮やかに話題を展開しているようだ。黒木の周りにいる四人がみな活き活きとしている。その証拠に、黒木の前の唐揚げは光沢をなくし、渇いていた。誰も唐揚げに手を着けないぐらい、黒木の話題展開がうまいのだろう。

僕は黒木とその周りの人間たちがうらやましかった。僕もいつもなら、黒木たちみたいになれるのに。今日はなれない。今日はなんだか溶け込めないし、場を作る気にもなれない。今日は…。

それならば、どうすればいいのだろう。割り箸をつかんで、つまみを口に運んでいればいいのか。それとも、タバコを吹かし続ければいいのか。

タバコを唇から離し、灰皿の片隅に寝かせた。置いた瞬間に灰が少しだけ舞い上がる。舞い上がった灰の先に、満タンのビール瓶を見つけた。なぜだか琥珀色に見えた。ビール瓶をやわらかくつかむと、僕はまだ少しだけ入っていたコップに注いだ。液体だけがコップに流れ、ほとんど白い泡は入らなかった。

ビールを一気に飲み干すと、僕は鞄から財布を出した。そして、黒木に帰ることを告げた。とにかく、ここを出るのだ。沈んだ気持ちのまま、ここにいても得られるものはないし、周りにも迷惑をかける。せめて、ここから出られるぐらいの勢いのあるうちに。

個室の入り口へ行くと、黒木も立ち上がり、居酒屋の入り口まで送ってくれた。名残惜しそうに黒木は僕の肩を叩いた。黒木は、来てくれてありがとうと言い、僕もその礼に答えた。もう少し残ってもいい。そう思ったが、黒木に3千円を手渡した瞬間に、僕はもうこの飲み会から離れていたことを悟った。

わずかに触れた黒木の手が、冷たくひんやりとしていた。僕はどうしても、この男の前では正直になってしまう。情けない顔になっているだろう自分を思って、苦笑いをしてしまう。それにつられてか、黒木も微笑んだ。