オンライン青春小説「国道302号線を歩く」8

オンライン青春小説「国道302号線を歩く」8

そういえば。僕は再びPHSを取り出した。知佳からメールがあったのに、気づかなかったかも知れない。急に、そんな思いに駆られたからだ。だが、着信はなかった。電話の着信に過敏になっている僕が気づかないはずはないのだ。そのまま、知佳からもらったメールをもう一度見直し始める。

さっきは何も思わなかった、知佳からのメール。それが、今度はスッと知佳の言葉が頭の中へと入り込んでくる。

<ナニヲシテイルノ? チカ>

以前もらったメールの中から、無意識にこのメッセージを選んでいたのだ。読んだ瞬間に、まるで、今の状況を尋ねられているような気分になった。思わず、僕は吹き出してしまった。無意識に、このメッセージを選んでいた自分。無意識に、自分で自分を慰めているようだ。そう思うと笑いがこみ上げてくる。

思わず、声を出して吹き上げてしまったので、僕は後ろを振り返った。周りには誰もいない。旧家から漏れる明かりが一定して着いているだけだ。明かりに揺れさえもない。通行人やこの辺の家の人たちから変質者と勘違いされては困る。誰にも見られていなくて良かった。僕は胸をホッとなで下ろした。しかし安心すると、僕はまた自分の行動がおかしくなってきた。こんなにも静かなところで、こっそりと僕は何をしているのだろう。こっそり、1人でナニヲシテイルノダロウ…。

 

九段下を抜けるときに、僕は東京駅までのルートを再び靖国通りに戻した。靖国通りに出たときには、僕がよく行く神保町にさしかかっていた。外堀通りと接している白山通りを越え、見慣れた古本屋街の景色にたどり着いた。色褪せたテントの店が続く。テントに穴が開いている店さえある。錆びた看板に古ぼけた漢字で書いてある店名は、この町の古さを感じさせる。

ここまで来れば、東京駅までもうすぐだ。後は神田を抜ければ、もう東京駅だ。PHSに付いている時計を見ると、9時20分だった。新宿から、約一時間ほど歩き続けているわけだ。しかし、さほど疲れてはいない。

学生街である神保町も人の気配がほとんどなかった。夜ともなると、この町も静かな町だ。車の通りもだいぶまばらになっている。車と平行して、僕は靖国通りを真っ直ぐ歩いた。もうすぐ東京駅だと思うと、歩みが速くなる。考え事をする間もなく、僕はひたすら歩き続ける。シャッターの降りた田村書店の横を抜け、明かりの消えた書泉の前を横切った。額の汗を拭う手の動作も速かった。

時折、信号待ちで止まることになる。これがなければ最高なのだが、信号ばかりは仕方がない。止まらざるを得ない。

赤信号で止まった。そんなとき、ふと気づいた。ここに来て、止まった隙を見て考え事をするようになったのだ。さっきまでは考え事の合間に歩くといった感じだったのだが、今はまったくその逆だった。さっきまでの嵐のように考え事をしている時間が懐かしく思えるほどだった。

そう懐かしく思えるほどだ。考えていたときはとても辛かった。悩んで悩んで、それでも答えが出なかった。悩むという白く大きな波で、沈没しそうになっていた。

何をしても意味がない。変わらないという答えを出し、独りよがりにそれを正しいと思いこんでいた。”無”という答えが出してしまって、そこに何もないことに落胆していた。それでも、ひたすら、”無”というどうにも仕方のないものに解決を求めていた。どうすれば、その”無”が無くなるかを考えていた。

けれど、”無”が無くなることなんて無いのだ。”無”があることは事実なのだ。


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