青春&友情小説「雨」7

青春&友情小説「雨」7

「もしもし」
僕の無言に拍車をかけるように、男の声が続く。
「もしもし、近藤だろ?」
「ああ」
いつの間に岩崎祐子の電話を取るような仲になったのだろう、加藤は。ビニール傘が大きく揺れて、僕は完全に傘からはみ出してしまった。肩に雨が染み込み、雨は躊躇なく頭に降り注ぐ。鳥肌が立ってきた。

「どうしたんだ?」
「どうしたんだって」
僕はなんと言ったらいいのだろう。結局、結局。個人になるということは、痛みを伴うことなのだ。その痛みは想像を絶していた。
「近藤? 何かあったのか」
「いや、なんでもない」
「何でもなくないだろう。声がいつもと違うぞ」
「いや、別に」
「おい、おーい。聞いているのか。おーいい!」
加藤の声が野別幕無しに僕の大脳を撃ち続ける。大脳の中で加藤の声が弾けて、僕の判断力を木っ端微塵に壊していく。僕はどうすればいいのだろう。そういえば、僕はどこから来たのだろう。さっき、感じた疑問だ。

電話が切れた。多分、僕の電波状況が悪くなったのだ。僕の電波状況が悪くなったから、電話が途切れたのだ。その後、僕は夢から覚めたように、呆然と自分の手を見ていた。シルバーの携帯電話を見つめていた。いつ見ても、シルバーはシルバー。これがオレンジにも、ピンクにも変わらない。もちろん、黒にも。僕も結局は僕で。

雨粒の付いた携帯電話をポケットにしまい込んだ。
体全体にみなぎっていた勢いが嘘のようになくなった。雨が僕の力を溶かした。1歩1歩に力がなく、たどたどしく歩いていた。それは疲れたのでもなく、だれたのでもない。それに自分のたどたどしさに気づいてからは、なんとなく、ゆっくりと歩きたくなったから、ぽつんぽつんと歩き続けた。いっそ体も心も雨に濡れてしまいたかった。群青色の空から、隙間もなく振り注ぐ雨。降り注ぐ雨のままに、僕は歩きたかった。

シルバーの携帯電話がけたたましく鳴りだした。僕はそれを無視した。無視して、歩き続けた。濡れた傘を力無く下げたまま、僕は自分のペースで歩いていた。横を通り過ぎる京浜東北線がまるで僕をあざけ笑うようにクラクションを鳴らす。その音が耳に入っても、僕は京浜東北線を見ることなく、アスファルトの濡れた歩道を見つめていた。黒く、薄汚れた道を。まるで、そこに何かがあるように。

携帯電話は鳴っていた。携帯電話は時に鳴り止み、時に鳴り続けた。僕は無視し続けた。川沿いの道を歩きながら無視した。信号の変わらない交差点でも無視した。そして、家に近づくにつれ、そんな携帯電話も鳴らなくなっていた。同様に、電車に乗っていたときには次々と浮かんでいた疑問もまったく浮かばなくなっていた。あの時と同じなのは、額に光る汗だけだ。雨で体は冷やされているはずなのに、むしろ汗は次から次へと湧き出ていた。手の平で汗を拭いながら、僕は家までの道を止まることなく、とぼとぼと歩き続けていた。