クライマックス!青春小説「ブレイブ ピープル」END

最終回!青春小説「ブレイブ ピープル」END

安藤も渡辺も、西郷も酔いつぶれていた。あの高杉さんも酔いつぶれて寝ている。相変わらず、美紀だけがひとり起きている。

「何やっていたの? 男同士で。危ない関係かな?」

「はいはい、美紀はバカやってないで。ところで、俺と結婚する? あと、専務就任は?」

美紀は赤い顔をゆっくりとトシの方に向けた。

「ねえ、いつまでも私のこと好き?」

「ああ」

一瞬の沈黙が流れた。僕はその間に願った。美紀がトシと結婚すると言わないことを。

「んじゃあ、結婚しない。専務就任は受けるけど」

「へ? どういうこと?」

「待ってくれるんでしょ、いつまでも私のことが好きなら。それなら、もう少し考えてからにする。へへ。考えたでしょ? ね、太閤さん」

僕は笑いながら頷いた。

「おいおい、それはないだろう。美紀ちゃん、結婚しようよ」

ひとさし指を美紀の頬に当てて、トシは結婚を粘った。しかし、美紀には首を縦に振る気はないらしい。僕はそんな様子のふたりを見て、僕もがんばろうと思った。愛の存在を肯定させて、愛を信じていく美紀の姿。愛を与える力を得て、愛する者に愛を与えるのが自然なトシの姿。どんな形でもいいから、僕も僕の自然な愛の姿を見つけたい。そう思うと、疲れたなんて言っていられない。生きるんだ。愛は生きてこそ与えられるのだし、受け取れるんだから。

いつしか、僕たち三人はカウンターにもたれかかり、美紀を真ん中に肩を寄せ合って眠っていた。それは肉体だけではなく、精神的にも。

朝起きると、すがすがしい光が射し込んでいた。昨日のウィスキーが頭の片隅に残っている感じもするが、僕はとりあえずすがすがしい日光に触れたくて仕方がなかった。肩に掛かっているトシの手と美紀の手をうまく振りほどき、僕は立ち上がった。

店を出てみると、風が強くなっていて、昨日の夜よりも肌寒かった。だが、そんなことに負けてはいられない。僕は思いっきり体を解放して、深呼吸をした。今まで背負っていた重いものが体から逃げていくように、思いっきり伸びもしてみた。頭痛がひどくなるほどに、重いものが僕の体から離れていっているような気がした。どこに、その重いものが逃げていくかと見ていると、上へ上へと昇っていく。青い空の方に吸い寄せられている。今日も快晴だ。眼に降り注ぐ太陽からはまぶしさをまったく感じない。少しもまぶしくなかった。

ガララ。後ろで、戸が開く音がした。

「あら。起きてたんだ、太閤さん」

美紀だった。寝ぼけまなこのまま、美紀が僕の方に寄ってくる。

「んねえ、私をトシに取られたくないでしょ?」

いたずらっぽく、美紀は僕にふっかけてきた。

「何言っているんですか? 朝っぱらから」

動揺をかき消そうと、僕は怒ったふりをする。だが、多分、美紀には見破られているだろう。女はこれだからイヤだ。

「ふふんだ。大丈夫。私はそんなに簡単に決めないから。だって、安藤さんも格好いいし。トシもいいけど、太閤さんだって捨てたものじゃないし」

「捨てたもんじゃない?」

「そうだよ。あなたの、何とも言えないあたたかさ。私は好きだよ」

僕はこんな時どう答えたらいいのだろう。

誰もが知っている。疲れたときは休めばいい。けれど、僕はそれを忘れていた。休む術を忘れかけていた。誰かにもたれかかったり、誰かに頼ったりして休むことを。そして、たまった疲れを僕は悪だと思い込んでいた。疲れという悪に、その身までも潰されそうになっていた。だが、僕はトシや美紀に救われた。吸い込まれるように、僕は自然な人間に戻れた。自然だった頃の僕に帰れたのだ。

臆病で、寂しがりで。そんな自分を受け入れられなかった過去の弱い自分。だが、僕ははっきりと気づいた。それも自分なんだ。自然な形の自分なんだって。これからは全部受け入れて生きていくんだ。それはトシが教えてくれたことだ。

僕はトシの近くにいたい。トシの近くにいると楽しい。楽しいし、自分を好きになれる。自然体な自分を好きになれる。僕はトシと一緒にやっていきたい。トシと美紀と三人で、永遠にやっていきたい。それが僕の自然。


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