将来を考える青春小説「ブレイブ ピープル」15

将来を考える青春小説「ブレイブ ピープル」15

ははは。背中のトシの笑い声が高鳴っている。はあ。僕はため息をつきながら、エレベーターに乗り込む。エレベーターの中でも、トシは笑っている。狂っている。ここまでくると、狂っている。そう思っているうちに、エレベーターのドアが開き、僕はトシを背負い、エレベーターを出た。美紀の部屋まであと少しの我慢だ。僕は自分に言い聞かせながら、美紀の家の玄関についた。玄関ホンを押す。あと少しだ。

「はい。あ、太閤さん。どうしたの?って、トシね。なに、これ。こんなに何でベロベロなの? まあ、いいや。とにかく、中に入れて」

困った顔というよりは、憤慨した様子で、美紀は玄関の戸を開けてくれた。僕はトシを背負いながら、美紀の家に入る。とりあえず、僕はトシをソファアの上に放った。すると、笑っていたトシが急に無表情になり、目を細めていった。

「たく、トシ。トシったら」

美紀はトシの赤らんだ顔を強くひっぱたきながら、トシの名を呼んだ。

「もう、仕方ないなあ。眠っちゃったよ。あたし、明日早いのに。こいつ、本当に人に迷惑かけるんだから。厚かましいとかの度を超してるよね。ここまでくると。本当にウザイ。だいたい、人に甘え過ぎなんだよ、こいつ」

もう言いたい放題だった。美紀はここぞと言わんばかりに悪口を並べて、トシを批判している。いくら何でも、トシが可哀相に思えてきた。

「まあまあ。今日のトシは何かあったらしくて、嬉し飲みだったらしいし」

「嬉し飲み? それでもここまで飲むことないじゃない。もう、本当にバカ」

手のつけようがないな。ため息がまた出てしまう。

「あーあ、もう目が覚めちゃったじゃない。たく」

すごい勢いでトシを蹴りつける美紀。正直、僕は怖くなった。

「ねえ、ところでさあ、人が寝ているところ起こしていったんだからさあ、太閤さん、朝までつき合ってよ。ね、一緒に飲もうよ」

どうやら、僕は二日続けて徹夜になりそうだ。はあ。ため息がまた漏れる。

「はい、水割りね。あたしはロックで」

機嫌がいいのか悪いのかわからない。女はわからないな。僕は水割りの入った蒼いグラスに口をつけた。

「ねえ、嬉し飲みって、トシに何があったの?」

「さあ。赤船っていうお店で飲んでいてね。急に、トシの携帯に電話があったかと思うと、その電話以来、急に舞い上がっちゃって。それで、こんな調子になったんだ。こっちもわけがわからない」

「ふーん。赤船に行ったんだ。それでこうなったのね」

「赤船を知っているんですか?」

「うん。何度も行ったことあるもの。あそこの板前さんさあ、トシの親父さんみたいなもんだからね。小さい頃からの関係よ。確か、あの人が天下屋で働いていた頃から、トシはよく遊んでもらっていたもんね。私は最近になってからだけどね、それを知ったの」

水割りも結構きつくなってきた。さっきの日本酒が急にまわりだしたのかもしれない。僕は眠気を取り去るために、目を何度もこする。

「ねえ、ねむいの? 眠っちゃヤダよ。人んち来て、人を起こしといて。それはズルイよ。もう少し話そうよ。ハイ、もういっぱい」

そういいながら、美紀はウィスキーの瓶を僕のグラスに傾けた。ドボドボと注がれる音に、僕は嫌気を感じた。だが、美紀は笑いながらグラスを僕に差し出した。そして、可愛い声で、飲んでと僕にウィスキーを勧めてきた。女の人に媚びられると、僕は弱い。ましてや、僕は美紀のことが好きなのだから当たり前と言えば、当たり前なのだが。僕はぐいっと一気に飲み干した。カアッと喉が焼けるように熱くなる。思わず、顔をしかめる。

「大丈夫? 太閤さん。無理しなくていいのに」

人に無理させといて、それはないだろう。僕はそう思いながら、ウィスキーの瓶を自分の袂に寄せた。そして、お返しと言わんばかりに、ウィスキーを美紀の赤いグラスに注いだ。

「ど、どうぞ」

喉がヒリヒリとしていて、これ以上は声どころか音にもならない。それでも、僕は懸命に美紀にウィスキーを勧めた。

「よーし、んでは飲んじゃおう」

美紀はグラスの中身をいとも簡単に飲み干した。一瞬だけ顔をしかめたが、ふいーという吐息とともに、そのしかめた顔を吹き飛ばした。

「ねえ、太閤さんって、何をやっている人なの?」

美紀は微笑を浮かべながらウィスキーをグラスに注いだ。もちろん、僕のグラスに溢れるぐらいに。


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