将来の行く先は?青春小説「ブレイブ ピープル」17

将来の行く先は?青春小説「ブレイブ ピープル」17

トシは僕と似ているのだろうか? いや、全然似ていない。

「似てないですよ」

「ええ、でも、さっきの太閤さんの話を聞いていると、太閤さんも人にあまり助けられなかった感じがするけど」

美紀の言うとおりだった。ただし、トシとは理由が違う。僕の場合、助けを求めることができなかったのだ。変に高くついたプライドのせいだろう。いや、怖かったのかもしれない。自分の無能さをさらけ出してしまうようで、親にも友人にも、誰にも自分の助けて欲しいことを話すことできなかったのだ。トシは違うのだ。その点で、トシは人に自分の弱みをさらけ出せた。真っさらな正直な自分を出せた。その結果、人に助けてもらえなかったとしても、もがきあがいて、自分一人で物事を解決していったのだろう。それが僕とトシとの最大の違いだ。

「僕は人に頼れなかったんですよ。悩みさえ、打ち明けることができなかった。だって、怖かったんだ。僕の周りから、誰も彼も逃げてしまいそうで。僕の醜い面を見て、僕から逃げていってしまいそうで。僕はそれが怖かった。だから、誰にも自分を見せることができなかった。内面をオープンにできなかった。その一方で、僕はわかったんです。それが淋しいことなんだって。本当の自分を出せないってことは、生涯自分は孤独なんだってことに気づいたんですよ。孤独に気づいてからは、地獄でした。だんだん耐えられなくなりました。そして、なにもかもに、疲れてしまったんですね。就職も人間関係も不安から逃げることも。人生にさえも。まあ、美紀さん。僕はそんな男なんですよ。今は就職活動に疲れ、将来の不安に怯え、逃げることにも疲れた男なんですよ」

感情のままに僕は口走っていた。だが、口を閉じたその時から、僕に理性が戻った。そして僕の後悔は始まった。美紀も僕の前から消えるだろうな。後悔の波がたちまち僕を飲み込んでいった。跡形もなく僕は飲み込まれ、後に残ったのはため息と目の前のウィスキーだけだった。

「そんなこと…。そんなこと言わないで。自分をもっと信じなさいよ。だって、今、あなたは私に自分を出せたじゃない。それに、トシはすごくあなたのことを心配してる。幸せになれるようにと祈っているはずよ。あなたは寂しさを傷だと思って、トシに舐めてもらっていると思っているのかもしれないけど、トシの方は違う。トシは自分の寂しさを勲章とさえ思っているのよ。勲章だと思ってね、自分の強さの理由に数えている。そして、今のトシはあなたの寂しさも背負おうとしている。それはトシの中にもある寂しさ。孤独っていう、何ともいえない寂しさ。自分のことを誰にも打ち明けられず、誰にも頼って生きてこれなかった。トシ自身も、そんな寂しさを多分一人じゃ乗り越えられないと思っているんだよ。だから、あなたの力を欲しがっている。あなたと共に寂しさと戦おうとしている。私じゃ駄目なのよ。あなたじゃなきゃあ。だって、あなたたち共通の傷でもあるんだから。あなたも男なら、孤独と闘おうとしているトシに応えてあげなよ。逃げることにも疲れたとか言ってないでさあ、疲れててもいいから、人生を素直に生きればいいじゃない」

いつの間にか、僕の視線は下がっていた。ウィスキーを見ていた。濃い割には明るい色だった。

「それにね。太閤さん、あなたは今を生きているのよ。もう、子供の頃みたく孤独じゃないの。私もいるし、トシもいるの。友達だっているでしょう。あなたのことを心配してくれる友達だって。その人たちと精一杯生きて」

美紀の声は母親の声のようにあたたかかった。僕はその声に甘え、いつしか目を閉じて聞いていた。そして、引き寄せられるように、僕は美紀の前で眠りに就いていた。

その夜の眠りは久しぶりに穏やかだった。テレビで映るような白い砂浜と穏やかな海を見ている夢を見た。膝を抱えて、体操座りをし、僕らは並んで海を見ている。波打ち際で、美紀とトシと三人で海を見ている。誰も一言も口をきかない。ただ、波の音ばかりが遠くの方から続いている。淡々と永遠に続いている。

おい、おい。僕の肩を誰かが揺さぶる。眠い目を開けながら、僕は顔を上げた。

「美紀が出てけって。会社のお時間なんだってさ。しようがねえな」

トシがぼさぼさの頭を掻き掻き、僕に起きるように促す。

「あ、うん。で、美紀さんは?」

「美紀か。バスルームだよ」

シャワーかな。そう言えば、ここ2日間、風呂にも入っていないなあ。自分の部屋に行って、シャワーぐらい浴びてこよう。

「トシ。悪いけど、僕は自分の部屋に戻って、シャワー浴びてくるよ」

「ん。美紀が上がってからにしろって」

確かに、トシの言うとおりだ。勝手に転がり込んできて、黙って帰るのは確かに始末が悪い。僕はおとなしく美紀がバスルームから出てくるのを待った。

「おお。美紀ちゃん。今日も爽やかな笑顔だね?」

「たく。何言っているの? もう、トシったら。今度、あんなに飲んできたら、外にほっぽっておくからね。ふざけんなよ」

凄味をきかして、美紀が怒鳴りつける。僕は呆気にとられてしまった。

「まあ、怒りなさんな。愛嬌、愛嬌。しかし、今日も綺麗なスーツで。その濡れた髪が馴染んでないけどな」

「この部屋にドライヤーがあるんだから仕方ないでしょ? 早く出てけ。太閤さん、ゴメンね。昨日言ったことは撤回ね。こいつなんか、ほっといていいから」

美紀は本音じゃないだろう。僕はすぐにそう思った。険しい表情の中にも、どこかトシを包んでいるようなものが感じられたからだ。

「あの、美紀さん。僕は部屋に戻ります」

「そう。また来てね。すぐ下なんだから」

美紀の声は素っ気ない声だった。別にそれが悪いわけではない。けど、何となく。僕は何となく淋しかった。