未来系青春小説「ブレイブ ピープル」2

未来系青春小説「ブレイブ ピープル」2

しかし、今年はさすがに就職しなければいけないと決心した。経済的にも限度があるし、僕の中では、今年の内に職に就かなかったら、永遠に定職に就かないような気がしていたからだ。何の夢もなくフリーターをやっていく。僕の中で、それは罪だった。ここまで育ててくれた家族や先生達に悪い。僕はどうしても就職しなければならないのだ。今日こそはどうにか自分を作って、覇気のあるところを会社に見せつけてやろうと思っていた。

先輩が決心で目を輝かしている僕の肩をポンと叩いた。そして、その手は水色のネクタイを手にしていた。

「ほれ、これでも絞めろ」

先輩は自分の首から、水色のネクタイを外して貸してくれた。僕は無言で、そのネクタイを受け取った。僕らはビルの入り口へと肩を並べて進んだ。

今度は、固いアスファルトから柔らかいバスのステップへと足を上げた。僕はぎくしゃくした歩みで、バスの後部の長椅子に腰をかけた。先輩もその隣にどっかりと腰を下ろした。

「しっかりと人を見るいい会社だと思っていたんだがなあ? 社長の目がいかんなあ。やっぱり、ワンマン系の社長は器量が狭いな。お前の能力を見越せないなんて。あれじゃあ、人事のことなんてできないだろうな」

先輩は僕のことを気遣い、向こうの会社の悪口をまくし立ててくれた。けれども、僕には、悪口の羅列が僕に対する誹謗に聞こえた。社長は人を見る目があったから、僕を雇わなかったのだ。僕のやる気のなさを見抜いたのだろう。先輩が会社の悪口を並べれば並べるほど、僕の社会不適合性の罪を数えられているような気になる。先輩に気を使ってもらわなければならないほど、自分の力がないことが実証されているような気がしたのだ。

実際、僕はこの社会に不適だ。それというのも、僕が社会というものに対して、勝手な悟りを開いているからかもしれない。社会はやる気、やる気と人に強要するわりには、やる気を湧かせるような仕事を人にさせてくれない。普通の人間は、それに耐えて仕事をしているのだろう。しかし、僕はにどうにもその手の我慢ができない。だからといって、社会から抜け出すことはできない。結局、僕はどうすればいいのか。絶望しか見えない社会にしがみついて生きていくしかないのか。僕は先輩の声が反響するバスの中で、ただ一人色のない世界で考え込んでいた。バス全体を射す夕焼けの色でさえ、僕のモノクロの世界へ侵入してくることはできない。

浜松町で僕は先輩と別れ、重いワイシャツの襟をゆるめた。別れ際に、今日のことを謝った僕を見つめていた先輩の顔には、何ともいえない疲れが流れていた。また今度、紹介するよ、と言った先輩の声がかすれているような気がした。

鹿島先輩は面倒見がいいから、僕を紹介できなかったことを自分のせいだと思っていたのだろうか。それとも、無能な僕にあきれていたのだろうか。どちらにせよ、僕は先輩の疲労感を伴った寂しい顔をもう二度と見たくなかった。

帰宅後、僕はあまりのだるさから着替えることも面倒で、緩めたワイシャツのまま、皺の寄ったベットに倒れ伏した。蛍光灯は、その白い光を発したまま、一晩中僕を照らしていた。

頭痛で始まった翌日、朝起きて体温計で熱を計ると、七度九分の熱があった。昨日の疲労感が僕に熱を出させたのだ。朝御飯を買いにコンビニに行くつもりだったが、足がふらついて、今はそんな状態じゃなかった。思うように足を前に出すことができない。それどころか、一歩一歩の振動が僕の頭痛を助長した。歩みを止め、僕はベットに戻った。空腹を抱えたまま、僕はマンションという籠の中で横になった。

二時頃、収まらない空腹と、乾燥したのどが僕をゆらりと起こした。シーツは汗で濡れていて、触るだけでも気持ちが悪い。それでも、ベットに手をかけながらではないと、立ち上がることができるかどうか不安だったので、手をかけてゆっくりと立ち上がった。まるで初めて月に降りた宇宙飛行士のようだ。一歩一歩、先に向かって歩き出すのが不安で仕方がない。


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