希望と青春小説「ブレイブ ピープル」21

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希望と青春小説「ブレイブ ピープル」21

「で、わかった瞬間に思ったんだ。自分の寂しさがわかる人間に会ったからといって、どうなるというんだろう。自分がそれで癒されるのかって。もちろん、そんなんで癒されるわけなんてない。自分の寂しさを再認識するだけだ。自分よりも強い人間に守ってもらいたかったんだ。引っ張って欲しかったんだ。でも、そうじゃない。自分で生きるんだって思った。自分を癒してくれる人間を求めるよりも、仲間たちと自分の寂しさを抱えて、自然に生きていった方がいいじゃないかって思ったんだよ。お前と会って、話しているときに、俺はそう思ったんだ。お前は俺から見たらすごく自然だったよ。うまいものはうまい。好きなものは好きって、すごい自然に出てた。それがすごく新鮮でうらやましくなったのさ。だから、お前に近くにいて欲しかった。たった三日間だったけど、俺にとっては十分すぎるほどの三日間だった」

トシの声は荒々しかった。だが、嘘を語っているようにも、怒っているようにもみえない。心から本当の自分をさらけ出そうとしている。

「それに、お前も、あいつらもすごく臆病だった。人間が弱いから、臆病になるのは当たり前だ。なのに、世間の連中は怯えた姿をさらけ出さない。むしろ、意地を張って、気にしていないふりをして生きている。好きでもない仕事をさも好きなように振る舞い、好きでもない奴らと楽しそうに話している。その仕事を、仲間たちを、本当の自分が好きではないことを認識しようとしないんだ。本当の自分を見るのが怖いからだ。いや、恐怖さえも意識していない。そんなのおかしいじゃないか? 昔の俺はそんな世の中がくだらなくってイヤで仕方がなかった。だから、交わることさえも嫌ったし、本当の自分をそんな奴らにさらけ出すことが罪なような気がしていた。でも、そんなことをしていたら、自分も、そんな奴らと一緒だということに気づいたんだ。本当の自分がしたいことは料理を作って、その料理に満足してもらうことなんだ。料理人として、生きている素材たちからもらったエネルギーを少しでも減らすことなく誰かに与えることなんだ。だが、天下屋が邪魔をする。俺はその天下屋の邪魔に本当の自分さえ見失いかけてた。けど、そんなの関係ない。自分がしたいことをすればいいんだ。邪魔されようと、自分たちの信念を曲げないで、やりたいことをやればいいんだ。そう思い、俺は独りでも闘うことにしたんだ。だけどな、やっぱ独りじゃ無理なんだ。そこでな。天下屋によって、料理人としての生命を断ち切られた連中に声をかけた。あいつらも天下屋を恐れていたからな。天下屋によって、一度は自分たちの夢を断たれたんだから。天下屋が憎んだ料理人はこの世界では生きられないから。そんな現実がおかしいことがわかっていても、自分から立ち上がることができなかったんだ。だけど、俺はそんな奴らと一緒なら、天下屋に立ち向かえると思ったね。自分たちの自然が料理に対して向けられている奴らとならば、天下屋が相手だろうと、がんばっていけると思ったんだ」

「何で?」

「あいつらが臆病でも、自分たちの自然に自信があるからだ。料理が好きなんだよ、あいつらは。天下屋がどんなに強くても、人間の自然には勝てない。人の持っている情熱を消すことはできない。だからさ」

「そうか」

僕は静かだった。トシとは正反対に静かだった。

「そう。今のお前みたいに、俺は自然になりたい。昨日、美紀と話していたこと。おまえさんの過去。お前の寂しさ。それを一緒に受け入れたい。人生に疲れたとか言っていたよな? でもなあ、そんなこと言わないでな、一緒にがんばろうぜ。お前はお前のやりたいことをすればいい。俺の近くにいたければ、俺の近くにいてくれればいい。誰にも、お前の中からにじみ出る力を塞ぐことなんてできないんだ。美紀が欲しかったら、美紀を俺から取っていけばいい。だけど、美紀だけはそう易々と渡さない。美紀については、俺も欲しい。母性を感じるんだ。今は、美紀を愛することが俺の自然なんだ。だから、そう易々とは渡さない。だからといって、お前も逃げるなよ。今は、お前も美紀のことを好きなんだから」

僕はウィスキーを横取った。そして、グイッと茶色の熱を飲み込んだ。体全身が熱い。

「わかった。トシも逃げないようにね。照れたりとかしてね。それと、もう一つ。これからは、何かをやる前に必ず僕たちに教えて」

「了解、了解。たく、うるせーな。俺の秘密主義のどこがいけないのかな。これも自然なんだけどな」

詭弁もどうやら彼の自然のようだ。僕にも美紀にも、たぶん、トシ自身にも塞いでおくことはできないのだろう。僕はそう思って、ベンチを立ち上がった。

安藤も渡辺も、西郷も酔いつぶれていた。あの高杉さんも酔いつぶれて寝ている。相変わらず、美紀だけがひとり起きている。

「何やっていたの? 男同士で。危ない関係かな?」

「はいはい、美紀はバカやってないで。ところで、俺と結婚する? あと、専務就任は?」

美紀は赤い顔をゆっくりとトシの方に向けた。

「ねえ、いつまでも私のこと好き?」

「ああ」

一瞬の沈黙が流れた。僕はその間に願った。美紀がトシと結婚すると言わないことを。