未来系青春小説「ブレイブ ピープル」4

web小説

未来系青春小説「ブレイブ ピープル」4

鼻血が収まってから、ご飯を食べようと思い、ベットに仰向けになって横になった。鼻血はいつしか止まっていた。鼻血が止まったことで落ち着いたのか、僕はどん欲な眠りにまたも吸い込まれていた。

日は沈み、いつの間にか西日になっていた。うすい光の西日が僕の顔に射し込んでいる。僕はその西日に当たったまま、宙を眺めていた。キューウと、腹が音を立てた。鼻につっこんだままのティッシュを取り、血の止まっていることを確かめると、僕はベットから、立つことを意識して立ち上がった。少し立ちくらみがする。コンビニの袋から、さっき買ってきた焼き芋アンパンを出して、丸飲みするようにかじりついた。続いて、袋から冷たくなった肉まんを出した。僕はそれを二秒で腹に収めた。袋の中にはもう何もない。それでも、僕のどう猛な食欲は求めることを止まなかった。冷蔵庫に何かなかっただろうか。フローリングの床をゆっくりと進み、冷蔵庫の戸を開けた。

すると、キッチンの横の玄関に不思議なものが見えた。なんと、さっき帰ったはずの赤ジャケットがいるのだ。座ったまま、何をするのでもなく。手をあごに当てて、微動もせずに玄関に視線をぶつけていた。

「あの」

僕は赤ジャケットの肩を叩いた。

「おお、起きたか。鼻血は止まったようだな」

「ええ。あ、そうじゃなくって、さっき帰ったんじゃないんですか」

「ああ、帰ろうかと思ったんだが、お前さんを放っておけないなと思って、ついここに残ってしまったのだ。まあ、これは俺の正義感の為せる技だ。わははは」

あきれて、僕には言葉がなかった。この人にはプライバシーとか、人見知りとか、そういうデリケートな精神がないのだろうか。見ず知らずの人の家にノコノコ上がり込み、勝手に人の家に居続ける。そして、それを正義という。まさに、人の心を思いやらない人だ。

「あの、先ほどは本当に助かりました。もう、ホントーに平気ですから、どうぞ、お引き取りください」

僕はホントーにを強調した。

「おお、そうか。平気か、そりゃあ、良かった。よし、じゃあ、景気づけに一杯行くか」

なんという発想だろうか。死ぬように眠っていた病人に吐く言葉であろうか。

「あの、僕、何か食べようかと思ってはいますが、酒を飲もうとは、これっぽっちも思っていませんので、飲みたいのならば、お一人でどうぞ」

僕は冷淡に突き放した。

「おお、そうか何か食いたいのか。よし、久しぶりに腕を振るうか。にいさん、座ってなよ、何か作ってやるから」

「え?」

「さあさあ、遠慮しないで向こうでくつろいでいろよ。貧血起こしそうなんだろ? うまいもの作ってやるから。座って待ってろって」

僕は否応もなく、キッチンから押し出された。赤ジャケットが赤ジャケットを脱ぐ勢いには、僕の断ろうとする言葉など寄せつける隙がない。

「そうそう、にいさん、なんて名前だ?」

包丁を水洗いする合間に、赤ジャケットが大声を出した。

「僕ですか。木下太閤って言います」

「へーすごい名前だなあ。豊臣秀吉から取ったんだろ」

「ええ、父親がものすごく秀吉さんが好きだったらしくて」

ジュッという音とともに、肉を焼くニオイが漂ってきた。食欲という欲が、どんな欲よりも上位に位置づけられる一瞬だ。口の中が唾液で一杯になる。

「あの、あなたのお名前は?」

「ああ、俺か。鈴木京香」

「あの、真面目に答えてくださいよ。こっちはちゃんと話したんだから。芸能人の名前なんか上げてごまかさなくったって、いいじゃないですか」

お腹がすいていることは、人をこうまでもイラつかせるものであろうか。僕は単純なジョークにさえ、むかっ腹を立てた。

「いや、大真面目だよ、こっちは。鈴木京香。京都の京に、香っていう字。それで、京香。本名だ。この名前をジョークと思うなら、お前の名前だって、ゼロ信評性だ。木下太閤、チャンチャラおかしいわ。カッかっかってな」

片手でおもちゃを扱うようにフライパンを煽りながらも、赤ジャケットは腰に片手を当てて、背を曲げていた。それは、人生にくたびれた老人のようだった。それでも、赤ジャケットの大きな笑い声は僕の不愉快を笑い飛ばしていた。