青春小説「大学入門す」1

青春小説「大学入門す」

はじめに

どうしてもこの作品を見せたい人がいたので、その人に会う最後の日までに仕上げた小説です。一気に書き上げたので、稚拙な表現も多いですが、勢いの出ている私小説です。

評価は比較的良かったです。これまでの作品と大きく違うのは、表現のコアが私文体から3人称的な文体に変わったことです。ただ、基本は1人称ですが。また、登場人物の多さはサスペンス小説「六色の弾丸」と同じくらいです。ただ、登場人物の多い小説は、わけがわからなくなったりするので、個人的には、あまり好きではないです。

この小説のあらすじは、幼い頃から友人のできなかった主人公ユージの大学生活を描きます。テーマは友情と成長、無形の有形化です。青春活劇を読みたい方はどうぞ!

青春小説「大学入門す」1

 目黒から恵比寿を走る山手線の中で、祐子はふざけて、僕の肩に寄っかかってきた。祐子にすればじゃれているつもりかもしれないが、電車の中でそんなことをしなくてもいいように思える。祐子はまったく人の目を気にしないのだ。典型的なB型だ。
次第に祐子の体重が肩にかかってくる。重い。いつもは少しも重く感じない祐子が、今日は不思議なほど重く感じられる。
「祐子」
僕の肩から顔を起こして、祐子は僕の方ににぎやかな目を向けた。
「祐子、どうなるかな、大学って?」
「まだ心配してるんだ。どうにかなるよ、別に」
祐子にはわからないだろう。僕の学校生活は常に孤独だった。高校時代も中学時代も、友達がほとんどできなかった。少しぐらいは口をきく人がいても、仲がいいというほどにはならない。昼御飯をともに食べる相手さえも苦労しなければ見つからなかった。そんな生活が、僕にはたまらなく苦々しかった。
「そう、まだ気にしてるんだ。友達なんかいなくたって、生きていけるよ。だって、ユージは、これまでだって友達いなくったって生きてきたじゃない?」
確かにそれはそうだ。だが、それは苦しい。学校生活が物足りない。それは、祐子はいい。友達がヤマほどいるからだ。けれど、僕には、友達といえる人間がほとんどいない。祐子が唯一の話し相手で、唯一の友達で、唯一の恋人なのだから。
僕の沈黙に祐子はあわてたのか、目を大きくぱっちりと開けて、僕の目をのぞき込んできた。そして、僕の白い眼球をむさぼり食べるように見つめた。
「ねえ、ユージ。そんなに心配なら、自分の性格を変えたら。人が寄りつくような人間になるのよ」
「明るくなれってこと?」
「うーん、ま、そんなとこかな。ユージって、なんか影があるんだよね。何考えているかわかんない、ってカンジかな。でも、そこが私にとって、魅力なのよね。クフフ」
性格を変えるか。明るくなるのか。確かに、高校時代も中学時代も、僕はぶっちょうであまり物事をはっきりとしゃべらなかった。それというのも、話すタイミングがわからないからだ。どこで、自分がしゃべっていいのか、どこでしゃべることを止めていいのか。それに、僕には日頃の小くだらない恋愛ごっこを聞くことが苦痛でたまらなかった。女の話など、これっぽっちも興味がなかった。興味のない話を聞いていられるほど、僕は大人ではない。大事な話だけできればいい。
その結果、日常的に話す相手さえもいなくなった。話すのは、学校帰りの祐子だけだった。祐子だけには、何でも話すことができた。昔から知っていたということもある。昔から、祐子は僕の汚い面も嫌な面も見ている。それでも、祐子は僕についてきてくれた。いつも、ユージ、ユージって呼んでは、僕と一緒にいてくれた。祐子が知っていてくれるからこそ、僕は祐子と話せたのだ。けれど、高校の連中も中学の連中も、昔どうだったのかなんか、まるっきりわからない。そんな連中なんて、信用なんかできるはずもない。
「ユージ。でもね、私は今のユージすごく好きだよ。優しいし、何でも話してくれるし、それに、ユージといると、なんだかありのままの私でいられるような気がする」
僕はそういう一言に弱い。たまらなく祐子が可愛くなる。嬉しさのあまりに、僕は我を忘れてしまった。大学への不安なんて、硝子戸についた曇りのようにすぐに消えてしまった。そして、僕は祐子にお礼のキスをした。
だが、祐子と別れた後すぐに、耐え難い恐怖に襲われた。また、ひとりぼっちになるのか、僕は大学でも友達のいない人生を歩むのか。僕はどうしようもない焦りを胸に抱えたままで、入学式の日を迎えた。