青春小説「大学入門す」3

青春小説「大学入門す」3

 疲労感だけが残る入学式が終わり、僕は家に帰ろうと思った。だが、何かムシャクシャするものを感じていた。人の多いところに来たせいだろうか? それとも、さっき会った佐々木という男のことが妙に気になるからだろうか? とにかく、僕はそのムシャクシャを晴らすために、地元のバッティングセンターに行くことにした。
金属バットが鈍い音を立てながら、ボールを叩いていく。僕は昔から野球のバッティングが好きだった。特に、ボールを打ったときの手に残る感触は何とも言えない。また、ピッチングマシーンが球を投げるまでのわずかな時間に、自分が無心状態になることは気分を晴らすにはもってこいだった。僕は振り子打法で、24のムシャクシャを打ち尽くした。
「ナイスバッティング。プロにスカウトしたいぐらいだねえ」
後ろを振り返ると、祐子が拍手をしながら笑っていた。
「お前、なんでここにいるの?」
「テレパシーかな? なんて、ジョーダン。ユージのことだから、入学式の人混みでムシャクシャしているんじゃないかと思ってね。ムシャクシャすると来るでしょ、ここに」
完全に祐子に行動パターンを読まれている。僕は少々自分の単純さに呆れながら、バッターボックスから下りた。
「さあてと、帰りますか」
「あれ、もう帰るの? ユージ。せっかく会ったんだから、どこかへ行こうよ」
祐子はいかにも不満そうだった。口をとがらせて文句を言っている。
「わかったよ。んじゃあ、俺の行きたい場所でいいな」
祐子はハイハイという様子で、僕に入学式のしおりの入ったクリアボックスを手渡した。
バッティングセンターのある階からエレベーターに乗り、僕らはビルの屋上に着いた。僕は風の強いところが好きなのだ。乾いた都会の風が吹くと、僕の心は妙なほど落ち着いた。目の前に広がるビル群の無生物のように立ち並んでいる様子が、人という生物の小ささを感じさせる。遙か昔から、人間よりも昔から、ずっとそこに立ち並んでいたかのように。ビル群は、威風堂々と地面に足を立てている。
缶ジュースを買ってきて、僕と祐子はベンチに腰をかけた。
「ねえ、友達はできた?」
祐子は興味深げに僕の顔をのぞき込んできた。
「いや」
僕はいつもの答えを出した。だが、答えた瞬間に、佐々木の顔が記憶の縁からよみがえってきた。
「だけど、話をしたヤツはいるよ。佐々木っていうんだけど、そこらにいるおちゃらけたヤツっぽいんだけど、なんか違うようなヤツなんだよね」
僕が人と話したと聞いた途端、祐子は驚いた顔をしていた。そして、まるで遺跡発掘研究者が新しい遺跡の話を聞く時のように目を輝かして、佐々木の話を聞き続けた。
「へー、ユージもそういう人と友達になれるんだ」
「いや、だから、佐々木っていうヤツはなんか違うんだよ」
「どこが?」
「いや、まだ会ったばかりだから、なんとなくなんだけどね」
「なんか論理的じゃないなあ」
僕は鼻でフンと笑った。僕は自分の直感に自信があった。だから、意見を翻す気にはならなかったが、これ以上説明をすることもできない。少々困り、黙りこくってしまった。 「ま、いいか。ユージが話す人だから、よっぽど変わった人なんだろうね。それとも、すごく頭のいい人か。どっちにせよ、友達になったら、私にも紹介してよね。ユージよりもいい男だったら、乗り換えるから」
裕子は満面の笑みを浮かべながら、一気に言い放った。そして、疲れたと言いながら、頭を僕の肩に寄せてきた。僕は鼻でフンと笑った。

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