青春小説「大学入門す」5

青春小説「大学入門す」5

 新歓コンパは騒がしかった。サークルの説明などほとんどなく、普通の飲み会と何も変わらない。畳の上にデンと足を据えた四つ足テーブルの隅っこに、初め僕と佐々木はおとなしく飲んでいたのだが、佐々木は酒が進むにつれ、エンジンがかかったように席を移動し始めた。それも決まってかわいい女の子がいるところに。僕はそんな様子の佐々木に呆気にとられながら、水のように透明なレモンサワーを飲んでいた。
「はい、こんにちわ。じゃなくって、こんばんわ。楽しくやってる?」
米原さんが、ビールの入ったコップを右手に僕の隣の席にやってきた。
「ええ、まあ」
ひきながらも、僕は冷静に言葉を返した。
「ねえ、その丁寧語止めない? 私たちタメなんだから」
「わかった。こっちもその方が楽でいいし」
僕はレモンサワーを一気にあおった。特につなげる言葉が思いつかなかったからだ。
「ね、私の友達紹介するね? 今坂っていうんだけど、ちょーかわいいよ。ねえ、ヨウコー、ヨウコー」
たく、女の酔っぱらいは本当にみっともない。僕は瓶ビールが前に残っているのに気づいたので、瓶ビールを自分のコップに溢れんばかりと注いだ。
「あ、手酌してる。言ってくれればいいのに。あ、これが今坂陽子さん。よろしくね」
水色のカーデガンを羽織った今坂という女の子はやや呆れ顔で、米原さんを見ていた。目の大きく開いた、色白の女の子だった。
「どうも、近藤雄次です。ねえ、手酌のどこが悪いの? 誰にも迷惑かけないからいいと思うんだけど」
「何言ってるの。手酌って良くないわよ、味気ないし。それに迷惑かけたっていいこともあるの」
何言っているんだ。この女。僕は首を傾げるのを抑えながら、泡の消えたビールを口にした。気が抜けていてうまくない。
「ねえ、そんなに渋い顔をしてないでさあ。ビールはこうやっておいしく飲むもんだよ」
米原さんは僕のグラスを餌をとるように奪い、ぐぐっと一気に飲み干した。
「ン、これ、気が抜けていてまずい。生ぬるいし。よくこんなの飲んでいられるね」
「だから、苦い顔をしたの」
僕は米原さんの愚かしさに呆気にとられながらも、笑ってしまった。それにつられるように、米原さんも笑った。今坂さんも何がなんだかわからない中、口を開けて笑っていた。酒とは不思議なものだ。気分を高揚させてくれる。

祐子の足はいつ見ても長かった。そして白くしなやかだ。
「ね、それでどうしたの? あなたが女の子と話したなんて、大進歩ジャン?」
祐子の声が自棄気味に聞こえるのは、僕の気が動転しているからではないだろう。女の子と話したことが悪いことのように、祐子は僕を責め立てていた。
「あの飲み物のおかわりはいかがでしょうか?」
いいタイミングだ。ポニーテールのウエイトレスが間に入ってくれたことによって、祐子も少しは落ち着くだろう。
「あ、じゃあ、お願いします、二つ」
かしこまりました、と頭を下げ、ウエイトレスは行ってしまった。目でそのウエイトレスが遠ざかるのをボーっと見ていると、祐子の強い視線を感じる。肌を焼くようにジリジリと。
「んでな、昨日は酒のせいもあって、いろいろと話せたわけだ。酒の勢いって恐いもんだな」
祐子の目を見て話すことができない僕は、空のアイスティーのコップをストローですすった。ちゅーちゅーと音が出るだけだ。
「へえ、お酒に弱かったっけ? ユージは強いよねえ。まあ、いいけど。お酒の力で女の子と話すことができたのはいいけど、その後はどうなすったんですか?」
「いや、だから、さっきも言っただろ? その後は佐々木と二人で帰ったって」
「ふーん。お酒の勢いで佐々木君と帰ったんだっけ?」
「おい、いい加減にしろって。別に女の子と何かしようとしていたわけじゃないし、そんな下心なんかないよ」
僕は少々イラついていた。人間何度も同じことを聞かれると、イラつくものなのだ。
「そ。別に何かあってもいいけど。ユージがどうしようと勝手だし。誰だっけかな、友達できるか心配だなんて言っていたのは。それが今じゃあ、女の子を侍らす中年オヤジと同じわけか」
「祐子。俺をいじめるなよ。何かあったわけじゃないって。今日だって、俺はお前の顔を見たくて仕方なかったんだから。すごい昨日は緊張したし。祐子の前だと、すごく落ち着くんだよね」
「そう。私もそうよ。あ、もうこんな時間。私、バイトがあるから」
「おい、おかわりは?」
ニコッと笑いながら、祐子は出口に行ってしまった。そして、外の人混みの中に、その姿を消した。ふうとため息をついている僕の目の前に、ポニーテールの店員がアイスティーのなみなみと入ったコップを二つ並べた。
「おかわりお持ちしました」