青春小説「大学入門す」6

青春小説「大学入門す」6

 結局、僕も佐々木も、そして米原さんも今坂さんさえも。誰も、みんなが知り合いになったサークルには入らなかった。だが、僕らはあれ以来、よく昼御飯を四人で取るようになった。クラスが同じわけでもない四人だった。けれども、受けている授業がほとんど同じために顔を合わす機会が多いのだ。それに僕としては、彼女たちといることが不愉快ではなかった。彼女たちはグラビアガールがどうこうとか言う低俗な話はしないし、体中に穴を開けている連中と違い、チャラチャラもしていない。日頃の話題も、豪快な米原の酒にまつわる武勇伝や今坂さんのピアノの話など、僕にとっては新鮮なものだったからだ。加えて、佐々木のお茶らけた話し方や仕草。これまでの人間関係とは違っている。まったく異質なものだ。たまに佐々木にはムッとすることもあるが、僕たちは学食やら、大学の近くのマクドナルドにたまることが多かった。もっとも、女の子を次から次へと探し歩いている佐々木はいないことが多かった。

四月も間もなく終わる頃、いつものように僕らは、三限のあとにランチをとってダベっていた。この時間は、広いが、汚れた白い壁紙の学食の一角で、僕と佐々木、米原と今坂さんとでご飯を食べるのが習慣になっていた。
「今坂さん。今日もハンバーグ定食なの?」
今坂さんはいつも食べるものが、ハンバーグ定食だった。なぜか他のものを食べる様子がない。
「うん。私、ハンバーグ好きなんだもん」
ハイハイ、と僕は手を振って、その会話を終了させた。
「ねえ、今度さあ、飲み会やらない?」
佐々木は飲み会をやりたくてたまらないのだ。酒と女。僕には彼の趣味がそれしかないように思えていた。
「え、飲み会? 先週もやったじゃん?」
米原は真っ先に反対した。確かに、佐々木の言う度に飲み会などやっていたら、身が持たなくなる。しかし、酒を飲むのが好きな僕としては、飲み会をやるのは悪くないと思っていた。それに、僕にはある魂胆があった。それは祐子をみんなに紹介しようということだ。僕は祐子に僕の友人を見てもらいたかった。それは、母親に自分の描いた絵を見てもらいたがっている子供と変わりない。だが、友人と意識できる人間たちに知り合えたことは、僕にとっては上手に絵が描けたときの喜びに匹敵するほどのものなのだ。いや、それ以上だろう。
「先週のはな、俺らたちだけの懇親会だったろ? 今度は俺たちの仲間を広げるために、それぞれの友達を連れて来るんだ。どう、この企画?」
「それってさあ、佐々木君。ただコンパしたいだけなんじゃないの?」
米原がそれを言った瞬間、僕も佐々木がそういうことを考えて、そう言ったに違いないと確信した。
「ん。お宅ら、何か勘違いしてない? 俺だよ、俺」
「いや、だから」
「ヨウコちゃん、なんとか言ってやってよ。米原に。俺はそう言うことを言ってるんじゃないのよ。ただな、俺らって、まだ知り合って日が浅いだろ? でも、俺はスゲーヤツらに会えたなあって思っているよ。でな、そんなスゲーヤツらのことをもっと知りたいんだよ。それには何が良いかって、この頭で考えたのさ。そしたら、ポンと。友達を知ることを通してこそ、もっとよくその人を知れるんじゃないかってね。わかった?」
お得意の佐々木のきれいごと演説が始まった。佐々木は何でも話を作ることがうまいのだ。しかも、論理的に。これがまた話す段となると、緩急をつけて話す。話を聞いていると、トークショウに手慣れた芸能人を思い出してしまう。聞いている者をうっとりさせることなぞ、佐々木にとっては朝飯前なのだ。
「わかったわよ。で、何人ぐらい呼べばいいの?」
「うーん、そうねえ。あんまり呼んでも、収拾がつかないから。各自一人か二人ぐらいで。そう、人は人に知り合ってこそ、刺激を受けて成長していく。そういうもんだよねえ、近藤」
「ああ。そうだな」
僕はドロドロのカレーライスにパクつきながら答えた。
「んじゃああ、そういうことで。曜日は。金曜ね。それでよろしく! 俺はチョイ野暮用があるから、先行くわ。んじゃあ、みなさん、また」
そう言うと、佐々木は自分の仕事は済んだというような感じで、自分の食器を持って席を立ち上がった。僕は佐々木の迅速な動きを見ながら、佐々木の野暮用が女に会うことだと思った。
「佐々木君ってさあ、本当に忙しそうだけど疲れを知らずに動けるよね。どこから来るんだろうね、そのエネルギー」
今坂さんが、ふいにつぶやいた。その一言を流すのは、僕には絶えられなかった。確かに佐々木のあの行動力、そして力はどこから出てくるのであろうか? 不思議な奴だ。もっとも、僕は一つのことに気づいていた。その不思議な力が僕を佐々木に結びつけている唯一のものであるということに。