青春小説「大学入門す」7

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青春小説「大学入門す」7

 新宿のアルタ前で待ち合わせをして、待ち合わせの相手を見つけるのは難しい。だが、適当な待ち合わせ場所がなかったので、僕はいつもアルタ前で待ち合わせをすることにしている。人の声を消そうとするような音を出している大画面の下、僕は祐子を捜していた。人混みのせいで、なかなか見つからない。こりゃあ、電話するしかない。そう思って、アルタ前の人混みを離れようとしたとき、僕は祐子を見つけた。
「あ、ゴメン、待った?」
そこには元気いっぱいに首を振る祐子が笑っていてくれた。
「ねえ、今日は大学の友達に私を紹介してくれるンだっけ? うれしいな。どんな人たちなんだろう? ユージの良さがわかるような人だから、きっといい人たちなんだろうな。」
今日の祐子はすごく機嫌がよく、跳ねるように声を出している。こんな日の祐子はすごく輝いていて、スポットライトを浴びているようだ。
「俺も嬉しいよ。祐子を紹介できる人たちに会えて。そうだ、佐々木っていう奴には気をつけろよ。あいつ、女と見たら見さかいないからな」
「へええー、ユージの友達にそういう人もいるんだ、意外だな。でも、私は平気よ。だって、ねえ?」
祐子は僕の手をつかんで、先へ先へと進む。まるで、早く楽園に行こうと急ぐ天使のように。弾んだ笑顔で、僕を楽園へと誘っていた。
飲み会の場所には、すでに今坂さんも米原も来ていた。他に二人女の子がいた。今坂さんの隣の女の子は色物のズボンにキャミソールで、子ギャルっぽい服装だった。今坂さんの連れとは思えない感じだ。連れていて、恥ずかしいのか、今坂さんはそっぽを向いている。
もっとも、米原の連れは連れで、これまた米原とは感じが違う。米原の友人からは米原の豪快さなど、露ほども感じられない。ロングスカートなんか履いていて、お嬢様、お嬢様した人だ。
「ねえ、近藤君。私の隣のこの子、岬 涼子っていうの。よろしくね。それとヨーコが連れているのが、菅野さんっていうんだって」
岬さんは僕に目を合わせて、深々とお辞儀をした。菅野さんは、やぁっという感じで手を挙げる。人それぞれだなっと思い、僕は祐子の方を振り返った。祐子を紹介しなければ。
「どうも。これが僕の・・・連れてきた、朝霧 祐子さんです。よろしく」
「どうも、初めまして」
祐子は小気味よく、頭を下げては挨拶をしてまわる。相変わらず、社交的な祐子に僕は呆気にとられていた。しかし、僕も負けてはいられない。少しは見習わなくてはいけない。そう思って、挨拶をしようと思った瞬間に、佐々木の邪魔が入った。
「ティーッス。今日はお元気? 佐々木君の登場だよー」
このテンションの高さはなんだ。佐々木のこの勢い。この先、飲み会がどうなるのか、僕にはまったく見当がつかなかった。
結局、飲み会は僕に祐子、今坂さん、今坂さんの友達の岬さん。それに米原、米原の友達の菅野さん、それと誰も連れてこられなかった佐々木。これで全部だった。まるで佐々木の願いが届いたかのように、女の子ばかりの飲み会だった。これで佐々木がはしゃがないわけがない。まさに佐々木はここぞといわんばかりに、はしゃぎまわった。今坂さんや、米原は日頃の佐々木を見ているから、また始まったという顔をしている。だが、免疫のない岬さんや菅野さん、それに祐子は佐々木の話を面白がって聞いていた。特に岬さんは日頃、この手の男と話さないのだろう。目を輝かせて、熱心に聞き入っている。
「ねえ、佐々木っていう人、面白いね。ユージが言っていたとおり、他の人とはちょっと違うね。なんか感じるものあるよ」
祐子は話の合間に、僕の肘をつつきながら早口でしゃべった。
「そうだろ? 何か違うんだよ、あいつ。でも、今日のノリのあいつが俺は好きなんじゃないけどな」
酸味のきいたブルドックを飲みながら、僕はさらりと答える。少々暑いような気がした。
「ん? そうなの。私、ちょっとトイレ行って来るね」
そう言うなり、祐子は立ち上がった。白いスカートからにゅうっと出た白いナマ足が動いていく様子は、何とも艶めかしい。思わず、僕は見とれてしまった。
「ねえ、近藤君。あの人、朝霧さん。あの人とはどういう関係なの? 親友? 同志? それとも彼女?」
実に興味深げに聞く米原の顔が恐い。妙に迫力がある。酒のせいで米原の顔が真っ赤になっているからだろうか。
「え、どうなの、答えなさいよ」
「さてね」
僕はとぼけることにした。人前で、どうこう言うのは僕は好きではないからだ。
「俺もトイレ」
「ちょっと逃げないの、答えてからじゃないと行かせないよ」
そう言うなり、米原が僕の青いシャツの裾を引っ張った。
「わかった、実はな。話すと長くなるんだがな・・・」
「うーん、もう焦らさないで」
ヒステリック状態の米原は裾を引っ張る力を強めたようだ。ググッと米原の方に引き寄せられる。
「わかったから。佐々木、こいつに話してやってくれよ」
米原の顔が佐々木に向いた瞬間、僕は僕のシャツを取り戻した。そして、米原から逃げだした。いそいそと歩く僕はトイレから帰る祐子にぶつかった。
「どうしたの、そんなに急いで?」
「いや、トイレに行きたいだけ」
そうと一言いうと、祐子は素っ気なく飲み会の場に戻っていく。何が起きたのかを知らないということは、実際すばらしいことだ。
トイレから帰ってくると、飲み会の場は談笑で包まれていた。僕は気まずい雰囲気が流れていることを予想していたのだが。少しもそんな様子がない。僕が心配しすぎだったようだ。そう思って、僕は自分の席に戻ると、米原が据わった目でにらみつけてくる。
「なんだよ、その目は」
「ふーん、それならそうとはっきり言えばいいのに。照れ屋さんだね」
一転変わって、米原の顔が砕けた。意味ありげな笑いだ。僕は隣にいる祐子の方を見た。祐子は澄まし顔で、モスコミュールをガブッと飲んでいる。
「祐子さんから聞いたよ。へえ、近藤君と祐子さんはそういう仲なんだ。いいなあー、うらやましい、ね、ヨーコ」
今坂さんは笑いながら、相づちを打っている。僕は何だか恥ずかしくなった。そして、それ以上に祐子がどこまで話したのかを聞きたくなった。僕が友達のいなかったことを話したのだろうか? 祐子の耳に僕は口を近づけた。
「何を話したんだ、祐子?」
素っ気ない顔をして、祐子は答えた。全部と。