ドロドロ系恋愛小説「堕天使色」1

青春系のお話ですが、ドロドロな妄想テイストで書き上げた小説がこの「堕天使色」という恋愛小説です。夢と現実との狭間で、恋とは何か? と悩む男の姿を描いていきます。

この小説のテーマは、”恋に踏み込む勇気”です。積極的に前向きに恋を進めた男の勇気を描いていきます。といっても、ちゃらいかんじではなく、むしろ、ちゃらくない感じの世界観です。当作品で登場する猫は、可愛さ百パーセントの友人の家にいる、こちらも可愛さマックスな猫をイメージしてえがいていきました。

ドロドロ系恋愛小説「堕天使色」1

ずっと思っていたこと。ある物がなくなったときの辛さ。例えば、小さい頃使っていたミニカーがおもちゃ箱をいつの間にか去っていたとき。しかも、もしそのミニカーに、死んでしまった父親の思い出なんぞが詰まっていたら。その辛さを思うと、僕はそのミニカーが詰まったおもちゃ箱を捨てることができない。いつかは捨てなければいけないことを知っていても。

PHSの払い込み用紙に付いていた、水色の紙に黒の文字で並べられたコラム。暇つぶしに、二度も縦に横に読んでしまった。そして、うーんとうなる。考え深げに、僕はうなってみた。しかし、僕には言っていることが難しすぎてわからなかった。

しかし、まったくやることがなく、その上、やる気のない暇な一日である。雨だから外に出るのも、うっとおしい。NHKの英会話講座でも聴こうかと思ってはいたのだが、どうも手にはつきそうもない。このむさ苦しい春雨のせいだ。ベットに仰向けに寝ながら、黄ばんだ天井を見ては短足な一日を過ごす。

何もする気のない日は、何もせず横になって、考え事をすることがもってこいだ。だから、僕はそのコラムに書かれている文字の意味を追い求めた。西から東に、浅いところから深くまで、そう、右脳に眠っているであろう前世の記憶を呼び覚ますかのように。でも、考えることに没頭し過ぎた脳は、あまりの深みへの追求に、僕を眠りの世界に呼び寄せた。いつしか、僕はまどろみの町から夢の世界に旅立っていた。有り体に言えば、眠ってしまった。

ブルブルブルブル。ファックスの紙を出す音が聞こえてきて、僕は目を覚ました。そして、その音は聞こえてきたという僕の思い込みではなく、実際に送られてきたファックスによるものであった。

[今夜十時、新宿南口、歌の広場前。それから、居留守は使わずに電話にきちんと出ろ。林健太郎。]

まだ温かい紙を手に取ると、面倒くさいと思った。十時に出かけたら、帰りは朝帰りになってしまう。僕は、どちらかというと、まじめな人間な方である。だから、基本的には、朝帰りなどしたくはない。それに、林につきあうと、ロクなことはない。この前も、林がシルクの柄シャツを着て、チンピラルックで歌舞伎町をでかい顔して歩くものだから、チンピラにからまれて、危うく僕まで殴られそうになった。だから、当然のことのように、僕は林のファックスを鼻くそのように丸めて、ゴミ箱に放り投げた。

そして、再び、ベットの上のブルーの枕に頭が来るような位置についた。そして、足をベットから投げ出し、ブランブランとぶらつかせた。何もやる気のしない自分を思って、クスリと笑う。それは、嘲笑ではなかったし、哀れみの笑いでもなかった。自分らしいなと思うと、不思議と笑いがこみ上げてくるのである。だから、そのクスリ笑いもいつの間にか、大きなガハハ笑いになった。誰もいない部屋で、ただ一人、大声で笑っている自分。テレビがついているわけでもなく、漫画を読んでいるのでもない。電話をしているのでもなければ、ペットに話しかけているのでもない。ベットで一人爆笑しているのだ。もしも、こんな図を百合が見たのならば、僕からきっと逃げていくだろう。電源の入っていないテレビのブラウン管は何を言うのでもなく、部屋の様子を映している。

今、百合は何をしているのだろう。刹那、僕は百合に会いたくなった。声を聞きたくなった。この衝動は百合のことが好きな僕には耐え難かった。僕には耐えられない衝動はやる気のないナマケモノをベットから引きずりおろし、電話の前まで動かした。

暗記しきっている百合の家の電話番号をプッシュする。いつもなら、ここでものすごく緊張するのだ。なぜなら、百合は家族と住んでいるからだ。いつだか見たトーク番組で、武田鉄矢が娘への電話の取り次ぎをするのに、男からの場合、ものすごくネチネチとつっこむというのを聞いて、男親というものはそういうものなのかと感心してしまい、反面、それをやられることのつらさを痛感した。以来、それを百合のお父さんからやられたのではたまったものではないと思い、それゆえ、いつも百合に電話をかけるときは、包装紙をきれいにはがそうとするときのように、ガチガチに緊張していた。

しかし、たいてい百合自身が電話に出てくれていたから、いつも、緊張する必要がなかった。むしろ、あまりにも神妙で、まじめ腐った僕の電話の応答に、百合はバカうけをしていた。百合がうけている間、緊張していた自分がたまらなく嫌になる。


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