自暴自棄。恋愛小説「堕天使色」11

僕は、さっきのテンションを言いずらそうに、口をそばめながら話した。

「そう。ちゃんと、うちのお父さんのこととか、これからのこと話しましょうよ。今、平気?」

「え、今。」

僕は横にいるユキに目をやった。それに気づいたのか、ユキはキョトンとして、こっちを見てきた。

「君、それは、まずいでしょう。お父さんが許さないでしょう。こんなに遅くに出かけるなんて。」

急に、百合の声の音量が下がる。

「これから、友達の家に泊まりに行くことになってんだ、私。それ、キャンセルしてもいいんだけどな。」

「いや、それにさあ、家には猫がいてさあ。」

「え、猫。ホント?どんな猫?かわいい?」

「いや、あ、ただの白の野良猫だけど。うん、かわいいことはかわいいよ、君ほどではないにしろ。」

「え、でも、見たいなあ、その猫。やっぱり、私これから行くね。じゃあ、待ってて。」

「いや、あの、来るって急に言われても。」

この言葉は百合には届かなかった。電話はすでに切れていたのだ。受話器を置いた僕は強く視線を感じた。興奮した顔のユキがこっちを見ている。

「え、お前の彼女、ここに来るの?」

「ああ、来るってさあ。泊まってくんだってさあ。」

「お前さあ、年中こんなことしてんの?」

「いや、そう言うわけではないですけど・・・。」

「俺、邪魔か。邪魔なら・・・。」

「出てってくれるのか。」

「いや、いいお芝居があるんだ。その芝居を打って、偶然を装って、お前の彼女に会うとしますか。さてさて、お前の彼女の面って、どんなんだろうな?工藤静香系、財前直美系、それともウーピー・ゴールドバーグ系?」

僕はユキの処理に困った。ユキは完全に百合に会うつもりでいる。しかし、百合は僕一人だけだと思っている。さらに、百合は話があるから、あんなに無茶な電話の切り方をしてまでも、強引に僕の家に来ようとしたのだ。なのに、ユキがいれば、百合の持ってくる大事な話はできないであろう。百合が来るまで、せいぜいかかって十五分。その間、ユキに外に行っててもらうか、それとも、自分が百合と外で話すか、僕は致命的に迷っていた。しかし、迷いは、僕をより深い迷いの森に誘導していった。そして、十五分という時間は、人間が桜の散ることを止めることができないように、何の手も講ずることができずに過ぎっていった。

「じゃあ、俺、そろそろ外に出てるから。ついでだから、酒買ってくるわ。お前の彼女も飲むだろ。」

ユキは本当に偶然を装うつもりだ。たまたま、上京して、僕の家を訪ねたという設定でいくつもりらしい。僕にはユキを止めるほどの策もなかったから、それを放任するしかなかった。もう、どうにでもなれ。ヤケのヤンパチカンカン太郎である。