初めてのバイトの日。恋愛小説「堕天使色」13

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「あのね、私がね、初めてのバイトの日にさあ、お客さんの前でオロオロしているときにね、この人がね、にらんだのよ。すごおくきつい目で。私、イヤな感じって思ったんだけど、この人の働いている様子を見ていたら、本当にこの仕事が好きなんだなあと思ったのよ。そしたら、この人のにらんだ気持ちもわかってきたの。そしたら、それまで、気になっていた丈への気持ちの正体がわかったの。私は、この人のこと好きなんだねって。だから、告白しちゃった。ねー、丈。」

もたれかかってくる愛しさの気持ちと、ロゼ・ダンジューのニオイのプンプンする百合を僕は必死に受け止めた。

「あーあ、これのどこがいいかね。ジョニーはな、昔はな、勝浦では、一、二を争うヤンキーの弟分でなあ。そいつとつるんでなあ、よくそこらの連中と喧嘩してたんだぞ。」

「こらこら、そんなこというと・・・。」

酔ったユキの言い出すことが恐ろしかった。百合を恐がらせでもしたらと思うと、たまらなく嫌だった。

「いいの!丈の昔話聞きたいから。何で、ユキさんはジョニーっていうの?」

「喧嘩をするとき、普通、理由がないと喧嘩をしないだろ。こいつはそういうタイプじゃないんだ。誰でも相手になるし、誰が相手でも全力で向かっていく。そういうタイプな上に、自分が喧嘩をしたければ、相手は本当に誰でもいいんだ。いわゆる、本当の意味での武闘派なんだ。今からじゃ、考えられないだろ?」

うん、うんと首を振る百合。その首と一緒に動く髪が、僕を撫でるかのように接触してくる。

「それが何でこうなったか。こいつ、喧嘩が強かったから、ある日な、町のヤクザに認められたんだ。こいつの兄貴分と一緒に。そして、町のヤクザの下についた。そこでついたあだ名が、ジョニーなんだ。丈っていうのが、その組の中にもう一人いてな、二番目の丈ということから、ジョニーってなったんだ。こいつのあだ名、面白かったぜ。”一重のジョニー”っていうんだ。」

「え、何で、何で?」

「二重の目を一重にしてやんなよ、ジョニー。ほら、こいつ、一重にするとさあ、いつもにらんでいるだろ。組にいるときは、まだ気性が荒かったから。年中、にらんでるんだ。いつも、にらんでるからさあ、目は本当は二重なのに一重になるからさあ、ついたあだ名が、”一重のジョニー”。」

「おいおい、そこらにしとけよ。お前のユキっていう呼び名よりもマシだ。お前の名前なんか、雪之丞の略だろ。」

ユキの勢いだと過去を全部しゃべられそうだ。巧みに、僕は話の矛先をユキの方に持っていった。そして、ユキへの当てつけとして、僕は目をつり上げ、一重の目をユキに向けた。

「おお、これこれ、この恐さだよ。懐かしいな。俺は、その当時、他のチームにいたんだけどな。こいつと会って、最初にやり合ったときはマジ怖かったぜ。」

「私、そんなの初めて聞いた。何で話さなかったの?」

言葉にならなかった。言わなくても、わかって欲しかった。一言でもそんなこと口に出せば遠ざかっていく。僕には、それがわかっていたから、いっさい口に出さなかったのだ。大切なものを失いたくなかったから。そのぐらいのこと、百合にわかって欲しかった。

「でな、こいつの兄貴分が鉄砲玉として使われたんだよ。こいつの代わりにな。こいつがその話を聞いたときは、血相かえやがってな、飛び出してったもんだ。でも、間に合わなかった。鉄砲玉として使われ、その返り討ちにあい、路上で倒れ伏しているそいつの兄貴分に会えただけだった。」

隣の部屋のテレビの音が聞こえる。

「ほら、本当にいい加減にしろ。場が静かになりすぎるじゃないか。百合もほら、いい加減に寄りかかってないでさ。自分で座って。」