酔っている。恋愛小説「堕天使色」14

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「うーん、だってさあ、好きなんだもの。」

「お前、相当酔ってるだろ?いい加減にしないと、怒るぞ。」

「いいよーだ、別に。こっちは酔ってるんだから。好きだって言ってるだけなのに、そんなに怒らなくったっていいじゃない。私、ユキさんのこと好きになろうかなあ。」

「おいおい、そういう類の冗談はやめとけ。顔引きつるだろうが。」

あまり酔っていない僕には困惑しか浮かばない。

「じゃあさ、じゃあさ、好きとか、愛してるとかさあ、素直に言ってくれる?ほら、顔を背けないで、こっち見て。そんなに自分の気持ちを伝えるのが恥ずかしいの?それとも、何か不満があるの?何か私に。」

「いや、別に。」

ドギマギしながら、そのドギマギした目の一つをユキに向けた。ユキは笑っているのかと思った。しかし、案に相違して、ユキは笑っていなかった。むしろ、先の見えないくらい遠い目をして、こっちを優しく見ていた。これには少なからず、驚かされた。ユキの性格からして、冷やかしのまなざしぐらい贈るだろう。しかし、現実には何か違うものを見ている。それが僕にはわからなかった。

「ほら、丈。ユキさんの方じゃなくって、私の方見て、答えなさいよ。」

百合に引っ張られる形でも、僕には答えられれば良かった。でも、僕には言えなかった。百合を見つめることができなかった。

「ごめん。ちょっと、言えない。言葉にはできない。」

そういいながら、アルコールの回りによる情の暴発によって、涙の垂れてきている頬を百合の白いセーターに押しつけた。そして、僕は両腕で百合を抱きしめた。言葉では言い表せない感情を僕は行動で表したった。

 百合は突然のことに少し呆然としていた。声一つ出さなかった。僕は涙が顔にある限り、百合の顔もユキの顔も、そして雨助の顔も、みんな見られなかった。コタツのヒーター音が僕の頭の中を回転していた。

 五分ぐらい抱きついたままであった。抱きしめているうちに、僕はまどろみの中に引き込まれた。不安のない、そして、暖かい。自分の樹に抱きつきながら、心地よい僕は夢に迷い込んでいた。

「ああ、しゃあねえなあ。こいつ。百合ちゃん、こいつ、お前のこと抱きしめながら寝ちゃったよ。あーあ、やっぱり涙流してやがった。」

「え、どういうこと?」

頭の上で、百合とユキの声が響いている。

「こいつ、泣くしか知らないだろうな。ごまかせないし、自分を偽れない。不器用といえば、不器用。でも、純情といえば、純情。さてと、さっきの話の続きをしてあげようか。ジョニーの過去の話。」

ユキ、余計なことをしゃべるな。僕は体を起こして話を制止しようと思った。しかし、体に電流が流れた。体がまったく動かない。力がなぜかしら入らない。せめて、声だけでも出そうと思ったが、その声さえも出せない。声の出し方や、力の入れ方を忘れてしまったようだ。

 しかし、奇妙なことに、意識だけははっきりしている。金縛りというものはこういうものかもしれないと、とっさに思った。どうにもならない僕をおいて、ユキは話を始めた。

「こいつなあ、その兄貴分が生きているうちは、その兄貴分の目の前でも、平気で歯が浮くようなこと言ってたんだぜ。一生ついていきますよ。なんてこと、しょっちゅう言いやがってな。」

ユキの口まねは僕的には全然似ていないと思う。しかし、百合には、それが似ていると感じたらしく、猿の子供のようにきゃっきゃと笑っている。

「本人の前でも、それから俺を含めた仲間の間でも、こいつはその兄貴分のことを、好きだ、一生俺は弟分だとか言って暮らしてたんだ。その兄貴分も、こいつのこと、すごくすごくかわいがってなあ。本当の兄弟よりもずっといとおしあっていたし、なんて言うか、どちらかというと、夫婦に近かった。あれだけ言われれば、情も移るよな。ところが、それが、組の幹部に、その兄貴分を鉄砲玉として使われ、そして兄貴分を失った。事の起きた後でだが、自分にまわってくるはずの鉄砲玉の役を、兄貴分が代わりに引き受けてたということもこいつは知った。こいつは不器用だから、自分のせいだと思ったんだ。日頃から、好きだとか、どこにでもついていくとか言っていながら、その大事な兄貴分を守り通すことができなかった。もし、自分が鉄砲玉の話を知っていれば、親しくなりすぎなければ、兄貴が身代わりになることもなかったと思ったんだろうよ。」

百合がすばやく話を止めた。