雨の答えは何か?恋愛小説「堕天使色」22

web小説

「ニャア。」

突然、僕の胸元で雨助が鳴いた。話しているうちに力が入ってしまい、雨助のことを強く抱きすぎたようだ。

「ゴメンな、雨助。つい、力が入ってしまったよ。百合、俺はそういう人間だ。一つのことに集中すると、こうやってまわりのものが見えなくなっちまう。そんな奴だ。だから、あいもかわらず、兄貴を失った悲しさを忘れられない。そして、好きなものを失うこわさが身に染みついて、この体からそのニオイがとれやしない。おかげで、好きなものも好きということができない。好きと言った瞬間、本当に好きなものの場合、俺のそばから消えてしまったときのことを考えると、身が震えるほど怖いからだ。」

そこで、僕は一つの「お前が好きだ」という言葉を飲み込んだ。そして、もう一度その言葉が浮かび上がってくるのを待つのではなく、すぐにその飲み込んだ言葉を取りに、のどの奥底深くの心に手を伸ばした。僕はその手を言葉を取るのに、充分すぎるほど奥につっこんでいた。

「だから、だから、これまで、お前に好きだとか、言えなかった。言うことを怖れていた。お前を信じていなかったわけじゃない。そうじゃなくって、お前がもしも、俺より先にいなくなったら。そう考えたら、怖かったんだ。でも、俺は知った。守られることも愛には必要なんだって。孤独に愛を注ぎ続けることだけではなくって、それに報われるだけの愛の補充がなければいけないんだって。そして、その補充のためには、愛する人に身を任せることが必要なことも知った。」

伏せていて、前を見ていただけの視覚を百合に向け、百合の視覚とぶつかるほど強く、そして近くに目を動かした。

「今なら、言える。百合、一緒にいてくれないか。俺の孤独や悲しみを消し去るためじゃなく、兄貴を忘れさせるためでもなく、ただ、俺のために、一緒にこれからもそばにいてくれないか。お前のことが好きだから。」

かすれた声で最後の単語を発したとき、僕の前は百合でいっぱいになった。震えている体の百合が見える。僕は百合を見つめたまま、その目が永遠に百合以外を見えなくなることを願った。

 次の瞬間、百合の右手が頬に飛んだ。顔を僕は百合に向け直す。僕をはたいた右手が僕の頬をつかんだ。そして、肩を横に張り、僕の肩にくっつけた。自然と、僕の耳の横に置かれた百合の唇が空気を吸い込んだ。そして、言葉という、酸素でも窒素でも、もちろん二酸化炭素でもない、感情によって光合成された百合の気持ちがその生を誇示し始めた。

「ありがと、丈。その一言、待ってた・・・。一言だけ待ってた。ありがと。」

その言葉は強くサイレンサーを掛けられていた。しかし、僕にはその声で十分だった。僕は百合を初めてその意思で、その腕で抱いた。僕は百合の白いセーターに、そして百合は僕の黒いレザーのジャケットに、その鼻を強くすり寄せた。そして、その強い抱擁の中で、百合の香りに没頭していった。そして、静かに目を閉じ、百合と二人で抱き合っている今をかみしめようとした。だが、目を閉じても、なぜかしら僕の目の中は明るかった。一本の筋道から、強く激しい光明が差していたからだ。僕はあまりのまぶしさに、目の中の目を閉じた。

 

 毛布の強くごわついた感触がした。背中をモゾモゾする虫がいるようだ。僕は爪の生えたその手を伸ばし、背中を思いっきりかいた。それが朝を感じさせた。それと同時に、僕は百合のやわらかい膝の上に寝ていることに気づいた。しかも、ここは僕の部屋だった。確かに僕は百合の部屋にいたはずなのに、なぜか二日前と同じシチュエーションで、僕の部屋にいた。さらに不思議なことに、机の上の腕時計も二日前の日付を刻んでいた。