堕天使が何かわかった?恋愛小説「堕天使色」END

 膝から僕の重さが去ったせいか、百合が静かに目を覚ました。しかし、百合の目は寝起きの人間の目ではなかった。目がはっきりと開かれていた。しかし、驚きと何かをとらえたような目で僕を見ていた。

「どうした、起きてたのか、ずっと?」

「ううん、すごくいい夢見たの。」

抑揚のない声で寝起きなのはわかるのだが、目つきはまったく反対の事象を指し示している。

「どんな夢?」

「ひょっとしたら、あなたも見てたんじゃないかと思ってるんだけど・・・。あなたが告白してくれる夢。」

「え?」

驚きを隠せなかった。やはり、変だとは思っていたが、僕は夢を見てたのか。じゃあ、実際は二日前のままなんだ。

 そう思うと、途端に、すぐに目前の不思議が浮かんできた。百合と僕は同じ夢を見たのか。確かに、僕は告白するという僕の大事を成し遂げる夢を見た。それを百合も見ていたというのか。

「俺も見てた。」

「あれ、ホントだよね。今でも言えるよね、好きだって。」

「ホントだ。お前のことが好きだ。」

いった途端に、毛先から左心房まで、体の隅々に熱く煮えたぎった血が行き渡った。体中がカーとしてくる。

「ありがとう。」

僕は微笑む百合を見た。百合も僕を見ている。静かな朝はユキがこの部屋にいるというのに、二人だけの静かな貸別荘になっていた。雑音は世界を変えて住み、汚れた僕の部屋も姿を消していた。

 

 今日の朝は僕らをおとなしい時間においていった。そのおかげで、僕らは僕らだけの時間に出会うことができた。そのせいで、僕は気づいていなかった。百合のすぐ隣で寝ていたはずの雨助の姿が煙になったことを。僕がそれに気づいたのは、遠く遠く離れたその日の午後であった。

 以来、雨助と僕は会うことがない。あの電信柱の所に行っても、雨助はもういることはなかった。雨助は自分の居所に帰ったのかもしれない。自分の主人の所に戻ったのかもしれない。でも、僕はそんな現実的な想像をするよりも、非現実的な想像を好んだ。雨助は天から落ちてしまった天使なんじゃないかって。それで帰るための翼を求めていたのではないかって。僕は好きと言う勇気を取り戻すことによって、気持ちがずっと上向きになった。その上向きになった僕の気持ちを翼に、雨助は天に帰っていったんじゃないだろうか。

 もし、その想像が現実であるのであれば、僕は堕天使色に染められたわけだ。雨助が来てからというもの、事あるごとに雨助は僕の家にいて、僕に孤独の寒さを感じさせた。その寒さが、百合に対する気持ちをずっとずっと高めさせた。そして、とうとうなくしていた愛を止めない、愛に答える勇気を手に入れた。雨助によって仕組まれていたとしか思えない。僕は、どうやら堕天使色に染められたのだ。でも、こんな堕天使色なら、ずっとドロドロに染まっていたい。