電話での会話。。恋愛小説「堕天使色」7

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 翌朝、僕は気持ちのいい寝覚めをした。と言いたかった。しかし、また同種の夢を見た。今度は、ウエディングドレスを着た百合が、僕のもとを去り、星野のところに引っ張られていく夢だ。僕はおかげで、またもやハッと起き、ぐっすりと寝た心地がしなかった。

「ニャア。」

鳴き声に反応して雨助の方を見てみると、雨助は昨日と同じように外に出たがっていた。

「はいはい、外に出たいのね、はい。」

僕には雨助がいなくなると、寂しくなることがわかっていた。それでも、雨助を外に出した。雨助にかまっている暇などなかった。今はゆっくりと考えたかった。一人になって、じっくりとなぜこんな夢を見るのかを考えたかったのだ。こんな夢を繰り返すのは、きっと何か理由があるはずだ。百合の身に本当に何も起こらないのか。何か起こったときは、僕はどのような行動をとるべきなのか。

 小十時間ほど考えたが、いっこうに答えが出なかった。僕にはいつまでも、百合のことを考え続けることしかできないのだ。他に何ができるというのであろうか。もし、天使がいるのであれば、それを教えて欲しかった。

 日が暮れて、僕の目の中から光が消えた。そして、いつしか、暗闇が映るようになっていた。何かをしたわけでもなく、何かをしようとしたわけでもない。三百六十五分の一とはいえ、こんな日は初めてだった。怠惰に闇を迎え、新しい光までそのまま起きていた。夢に対する怖れが、僕を本能的にそうさせた。おかげで、僕はその日、夢を見ないで済んだ。

 朝になると、僕は、ここ三十時間ぐらい閉じたことのない赤い目をこすり、義務感だけでバイト先に出かけていった。しかし、昼過ぎには、バイト先から帰ってきた。というのも、寝不足がたたって、厨房でぶっ倒れてしまったのだ。僕はバイト先からタクシーに乗り、息は絶えることはなかったが、めまいのくらくらする状態でどうにか家に帰りついた。そして、着替えることも忘れて、僕はベットに倒れ伏した。忘れていたのは、着替えだけではなかった。あの怖い夢のこともすっかり忘れて、眠りに入ってしまったのだ。

 ピルピルピル。電話の音が僕を呼んでいた。出なくてはと思い、僕は立ち上がった。どんより重い感じの頭。長い時間の不起動がもたらす肉体のだるさ。立ち上がった瞬間、僕は今まで肉体が死んでいたことを感じた。

 それと同時に、僕は気づいた。僕があの夢を見なかったことを。ここ二,三日で始めてである。あの夢から、僕は逃れることが出来たのだ。そのことに気づいたことは、体を軽くさせた。

 そして、僕は受話器を握った。

「はいはーい、坂井ですが。」

最初はか細く、後に高くなる。寝起きの声というものは、どうしてもこんなものだ。しかし、あの夢からの解放が声を弾ませる。

「おい、いい加減出ろよなあ。呼び鈴五回はないだろ。」

「あの、どちら様でしょうか。」

「声でわかれよな。勝浦で、東京の住所を唯一知っている者、そうその名は、ミスターマリック。」

僕には電話の相手がこれで誰であるのかわかった。

「おお、ミスターマリック。センキュー、あなたの電話。」

「あのなあ、このギャグ流すと、この後の展開難しいだろ?そういうのやめろよ。それに、あなたの電話っていう英文の直訳調もやめろよ。」

「・・・で、ユキ。何の用だよ?」

「ああ、今日なあ、たまたま、お前の家に遊びに行くという用ができてなあ。こっち、来ちゃったんだ。今、四谷町三丁目店のローソンの前に置いてある仮面ライダーの自転車の上で電話してるんだけど、四谷町だろ、お前の家?俺さあ、お前の家の正確な場所わかんないから、迎えに来てくれんか?」

「こっち、来たのか。そうか。じゃあ、今日は徹底的に昔話でもするとするか。じゃあ、即行するから、そこで待ってろ。」

「ああ、でもなんか、ヤンキーの兄ちゃんがこっちにらんでいるみたいだから、本当に早く来てくれないか。できれば、三十秒。イヤ、十五・・・。」

電話は切れた。非常事態かもしれない。僕は家を飛び出した。ドアを開けると、もう、だいだい色の夕日が顔を出していた。西日がやたらまぶしかったが、そんなことをいっている状況ではなかった。この前の日曜日、駅の自転車置き場から自転車を盗んでいった人間を恨みながら、僕はローソンまであらん限りの全力で走っていった。