プチ幸せに!恋愛小説「初雪の味わい」1

恋愛小説「初雪の味わい」ト書き

テーマは”初雪”です。平和な感覚を思い出す小説です。読むと、プチ幸せになる感じです。読者を裏切らない展開性があるからです。現実にこういうのがあっても良いんじゃない、という発想が浮かぶでしょう。

恋愛小説「初雪の味わい」1

ちらりちらりと。対角線の位置に座っているひかりに目を向ける。その瞬間だけ、僕とひかりは目を合わせた。ひかりの目は淋しそうなようで、僕を阻害するようなきつい目。だが、次の瞬間から、僕もひかりもお互いの話している相手の方に顔を向けた。

こんな目つきをされるくらいなら、コンパに何か来るんじゃなかったな。僕は肺いっぱいに息を吸い込み、ため息を深呼吸に変えた。寒さの厳しい夜だな、今日は。

だいたい、洋次が悪い。コンパをやろうと言い出して、僕をこの場に連れだしたのは洋次なんだから。僕は彼女がいるからと言って、何度も断ったのに。調子の良い洋次は、それでも頬を寄せつけるような甘い調子で懇願した。それもお前がいないと駄目なんだからと言って。挙げ句の果てには、洋次は友情を持ち出した。彼女と友情とどっちが大事なんだよ。洋次は、僕が友情という言葉に弱いことを知っていて、その言葉を口に出したのだ。友情。友達に支えてきてもらい、20という歳まで生きてきた僕にとってはかけがえのないものだ。僕はしぶしぶながら、洋次の懇願を受け入れた。彼女には内緒ということを条件に。

それが拙かった。洋次が企画したコンパは日大法学部と大妻女子大とのものだった。僕の彼女であるひかりは、そのコンパに来ないと思った。ひかりが早稲田の学生だからだ。ところが、そのひかりがコンパの待ち合わせの場所であるモヤイ像に現れたのだ。僕は見間違いかと思った。そうでもなければ、何かの偶然だと思った。だが、白地のワンピースに、黒の革ジャケット。僕がいつも可愛いと誉めているスカーフを首に巻き付けて、ひかりは誰かを待つようにモヤイ像近くの柱に寄りかかっている。往生際の悪い僕は、何かの偶然でひかりがここにいることを願った。しかし、そんな願いはむなしくも幻想にしかすぎなかった。ひかりは洋次とみっちーが連れてきた女の子たちを見つけて、大きく手を振ったからだ。はああ。このときから、僕のため息は始まった。

「おーい、浩介。わりい、わりい、遅刻しちった」

洋次が僕の帰ろうとする後ろ姿をとらえるかのように声をかけた。僕はこのまま知らないふりをして逃げようかと思った。しかし、一瞬僕は躊躇した。ひかりのことが気になったのかもしれない。誰かに取られてしまったらイヤだな。そう思って、足が止まってしまったのかもしれない。けれど、そんな躊躇は洋次に僕をつかまえてくれと言っているようなものだ。洋次は僕の肩をたたきながら、ふふっと笑った。

「どうしたんだよ、浩介。ああ、みんな、これが飯田浩介。俺の友達の中で一番かっこいい奴だよ」

「どうも始めまして。飯田浩介です。よろしく。て、別に俺はかっこいいわけじゃないでしょ」

僕は少々照れながら、洋次の腹をはたいた。友達同士で楽しくふざけあっている様子で、一見、誰にでも楽しそうに見える。だが、僕の方はそうじゃない。自己紹介をしているときから、横の方から重い視線を感じていたからだ。僕の頬を突き刺すような鋭い視線。視線の方向に顔を向けなくてもわかる。視線を発している人物がひかりであることは見なくてもわかる。

僕とひかりはお互いに、始めましてと挨拶をした。これはどちらからということではなく、その場の成り行きに従うしかなかったからだ。洋次とみっちーは店に移動しながら、チャラチャラと女の子2人に混ざって話している。僕はその集団の後ろをトボトボと。今にも泣き出しそうな空を見上げながら、渋谷の宮益坂を登っていく。時折、集団の中から、強い視線を投げかけるひかり。僕はそれに気づかないふりをして、上を見上げて歩いていた。町中で見かける黒っぽいコートが、曇りがかった夕方の空には映えている。


PAGE TOP