プチ幸せに!恋愛小説「初雪の味わい」2

プチ幸せに!恋愛小説「初雪の味わい」2

段取りのよい洋次は座敷の個室を用意してあった。しかし、冬場の座敷は面倒なことが多い。特に女の子はブーツを履いていることが多いので、ブーツを脱ぐのに悪戦苦闘することが多い。ひかりも例外ではなかった。茶褐色のロングブーツを脱ぐのに、座敷の入り口でかなり手間取っていた。自然と、最後尾を歩いていた僕がひかりの横に並んで靴を脱ぐことになる。

「手伝っちゃうか」

僕はひかりに耳打ちした。

「知らない」

ひかりの、小さくも素早い反応に、僕は事態の悪化を悟った。これ以上話しかけてもまずいな。僕は直感して、なるべくはやく席に着くように靴をいい加減に脱いだ。そして、窓側の一番隅の席を陣取った。隣はみっちーだった。洋次の隣に座っても、やっかいなことになるだけなのが目に見えていたからだ。その間に、ひかりも、やっとブーツから解放されて、席に着くことができたようだ。ひかりはスカーフを首からもぎ取り、鞄と一緒に自分の後ろに置いた。

ひかりの席は洋次の目の前で、僕とは対角線上。まるで仕組まれたかのように、僕とひかりは一番遠くの席に配置された。

「さあて、皆の衆、何を飲みますか?」

洋次はおちゃらけた声でみんなの顔を見渡した。女の子2人はキャアキャア騒ぎながら、メニューをのぞき込んでいる。ひかりはメニューを一瞥して、洋次に生ビールと告げた。

「ここ、カクテルを頼んで作ってもらえるんだけど、中生でいいの?」

「うん」

ひかりは目を横にそらして、僕の方を見た。この場で、ひかりの中生という返答、僕に向けるまなざしを僕への当てつけととるのは、唯一僕だけだろう。

「浩介は何するの?」

タバコを鞄から取り出しながら、何も知らないみっちーは僕に尋ねてきた。

「ああ。俺は・・・」

僕の注文の声をかき消して、前に座っている女の子が僕に話しかけてきた。

「飯田君って、なんかウイスキーとか飲んでそう。すごい渋めだもんね。ウイスキーのグラスをこういう風に振ってさあ、香りがいいとか言ってそう」

そんなに渋めなのかな。そういう風に言われると、僕としては人の期待に応えたくなってしまう。生ビールと言おうとしたが、僕は急きょバーボンのロックに変更した。

「やっぱり、そうなんだ。かっこいいー」

「イヤイヤ。ただ強い酒の方がはやく酔えるから飲むだけだよ。君は何を飲むの? 楊貴妃とか似合いそうだね」

「どんなお酒なの、楊貴妃って?」

「ああ、楊貴妃は別名チャイナブルーといって、カシスリキュールをブルーに着色したお酒。フルーツ系の甘さでおいしいよ」

「じゃあ、それにしよっと。久美子はどうするの?」

前の席の女の子は隣にいる久美子という女の子の肘をつついた。

「そうね、私は。そうだ、飯田君。私はどんな感じ?」

「ああ、アプレットぽいなあ。アプレットっていうのは、白ワインをリンゴジュースで割った奴。気品ある色で、お嬢様が緑に囲まれたテラスで、昼間に飲むような感じ」

「ええ、お嬢様。私、そんなんじゃないよー。でも、おいしそうだから。それにしよう。詳しいんだね、お酒に。飯田君はバーでバイトとかしてるの?」

僕は頭を振った。僕がカクテルに詳しいのは、ひかりのおかげだ。ひかりがカクテルが好きだと言ったから、僕は必死にカクテルの研究をしたのだ。皮肉だな。ひかりのためと思ってしたカクテルの研究がひかりの憎しみを買うことになってしまうとは。

「んじゃあ、あの隅にいるひかりにはどんなカクテルが似合う?」

「へ?」

思わず、声がうわずってしまう。ひかりの真剣な眼差しが僕の方に向けられているからだ。ナイフのように鋭く、僕の心をえぐる。そんな視線の中、僕が応えられるわけがない。僕は言葉を忘れてしまったように口を閉ざしてしまった。

「どうしたの?」

「え、いやね。入り口のところにいた店員さん。見たことあるなあって、ふと思っただけ」

「なんだ。ははは」