プチ幸せに!恋愛小説「初雪の味わい」3

プチ幸せに!恋愛小説「初雪の味わい」3

「どうしたの?」

「え、いやね。入り口のところにいた店員さん。見たことあるなあって、ふと思っただけ」

「なんだ。ははは」

2人の女の子達はケラケラと笑いだした。つられて、みっちーも洋次も笑い出す。笑っていないのは、僕とひかりだけ。こんな形で2人ぼっちにならなくてもいいよ。泣き笑いに近い形で、僕も低めの声で笑う。

「なあ、みっちーは決まった?」

「ああ、決まったよ」

「んじゃあ、頼もうよ。ねえ、ひかりちゃん。店員さん、呼んで」

「やだ、飯田君はひかりに会ったことがあるの? もう名前覚えちゃったんだ?」

う、まずい。つい、いつもの癖が出た。

「いやあね、石田ひかりと一緒でしょ? だから、耳に残ったんだよ。俺、石田ひかりの大ファンだから。『ママハハブギ』っていうドラマに出てた頃からのね。知ってる、そのドラマ? 織田裕二とか的場浩二、浅野温子が出ていたドラマ」

女の子は意外と鋭いから、ごまかしが利かないかもしれない。それでも、ただ黙っているよりはマシだろう。部屋の暖かさで白く曇っている窓から、赤いネオンのちらついているビルの谷間をのぞき込む。はああ。今日、2度目のため息。

10分も経つと、テーブルの上に料理が並べられていく。唐揚げにパスタ、マグロの赤身の刺身。宴会メニューの定番ともいえる料理が所狭しと並べられていく。

「洋次、そこにあるサラダ取って」

「ほいほい。ひかりちゃんも取ろうか?」

「あ、お願い。洋次君って、人のことに気がまわるんだね。ちゃんと気がつく人で、誠実な人っていいよね」

ひかりの野郎。当てつけやがって。はああ。洋次からサラダを受け取る手がかすかに震えている。微妙に揺れている和風ドレッシングが僕に手の震えを気づかせた。

「やだ。どうしたの手? ひょっとして、飯田君、アル中?」

久美子が口に手を当てながら、目をにやつかせた。

「ああ、本当だ。どうしたんだろう? 僕の手は。ああ。わかった。可愛いらしい君らの前で緊張してるんだよ、たぶん。たく、本体よりもお茶目なんだから」

ぷっと吹き出す前の2人。みっちーはあきれた顔で僕を見つめていた。

「久美子ちゃん、ねえ、みんなは同じ学校なの?」

洋次が洋次のコップにビールを注いでいる久美子に尋ねた。もともと、この2人がこのコンパの主催者らしい。親しげな様子だ。

「ううん。私の右にいる瑞恵と私は一緒なんだけどね。左にいるひかりは、高校時代の予備校仲間なの」

久美子の紹介で初めて僕の目の前の女の子の名前が、瑞恵であることを認識した。

「どこ行っていたの、予備校は?」

洋次は会話を止めないように、話題を動かしていく。それに対して、中生をテーブルに置きながら、ひかりは城南予備校と答えた。

「へー。それじゃあ、あれと一緒じゃない?」

洋次は僕のことを指さしながら、大声を張り上げた。

「そうなの、飯田君? ひかりは単科コースで英語だけとっていたんだけどね。私は早慶私大コースだったんだけど、飯田君は?」

「俺は東大国立コース。そんなに頭良くないのにね。人にも気を使えないし」

ひかりが当てつけるなら、こっちも当てつけてやる。対角線上で、僕とひかりは互いに意識しあい、言葉の撃ち合いをしていた。

「へー、すごいね、飯田君。頭いいんだよ、ねえ、久美子」

瑞恵という女が、まるで自分が誉められたように誇って答えた。だが、考え深げにみっちーがタバコの煙を吹き出しながら首を振る。

「ははは、そんなことないよ。こいつに限って。だってさあ、授業で、寝ていないことないんだぜ、こいつ。ずっと寝てばっか。しかもなあ。寝顔がすげえ幸せそうなの。見ているだけで、こっちまで眠くなっちゃうよ」

「で、寝てしまうとね、みっちー?」

洋次がすかさず突っ込む。

「はははは、参ったね、こりゃあ」

左手で後ろ髪を掻き掻き、みっちーが具合悪そうな顔をする。そんなみっちーの様子を見て、思わず、僕と洋次は顔を見合わせたまま笑ってしまう。