プチ幸せに!恋愛小説「初雪の味わい」4

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プチ幸せに!恋愛小説「初雪の味わい」4

ため息を深呼吸に変えた僕はテーブルに肘をついた。そして、コートのポケットからタバコを一本取り出して、居酒屋のマッチで火をつけた。マッチの火が冷えた手先をほのかに暖めてくれる。

ついさっきまで、久美子とじゃれ合っていた瑞恵が僕の方に座り直した。そして、わずかに身を乗り出してきた。

「ねえねえ、飯田君って、モテルでしょう? 顔は保坂尚輝っぽいし、背も高いし。しゃべるのも上手だし。ひょっとして、彼女いるんじゃないの?」

う。またもや答えるのが難しい質問だ。これは少し言い方に気をつけないと。僕は時間をかけるために、喉がいがらんだふりをして、バーボンに口をつける。うう。喉が熱い。

「あれ、答えられないの?」

久美子は意地悪そうに僕の顔をのぞき込んできた。瑞恵は興味津々という顔で、僕の方を見つめている。問題のひかりは、素知らぬ顔をしてビールのジョッキをあげている。だが、素知らぬ顔をしていても、こういう話はしっかり聞いているものなのだ。

「ううん、別に。あのね、ちょっとシャイだから、俺。答えるのに照れているだけよ。うん。俺は好きな人いるよ」

「えー、どんな人なの?」

興味津々顔の瑞恵ちゃんを前にして、俺はちょっと困った顔をせざるを得ない。

「どうしたの、やばい恋なの、それは?」

「うん。そうなんだ。すごく好きで好きで仕方がない恋。眠っていても、その人と一緒にいる夢を見てしまう恋なんだ。だからさあ、授業中でも会いたくなったら、目をつぶって、その人のことを頭に浮かべながら眠るの。その人の顔がすっかり浮かぶ頃には、本当に眠っちゃうけどね」

「へえ。ロマンチストなんだね、飯田君は」

瑞恵は目を輝かせていた。反面、久美子は笑いを我慢している様子だ。洋次、みっちーに至っては顔を見られない。絶対、こいつら笑ってるだろうな。後でいい笑いものにされるのがオチだな。はああ。今日、3度目のため息。

もっとも、僕が言葉の反応を見ていない人はもう1人いる。ひかりだ。しかし、それは見てはいけないような気がしたから見なかったのだ。だが、それは本当だろうか? ひかりを見たら、何かを口走ってしまいそうだったからではないか? 僕は僕の心が一番わからない。五里霧中だ。

ひかりの顔を見ないためにも、僕は窓の外に顔を向けた。空を見上げると、本当に雨でも降ってきそうな雲の流れだった。もう暗くなっていたから、ハッキリとはわからない。けれど、僕には何となく雨が降りそうな気がしていた。いや、今夜は寒いから雪だろうな。傘ないんだよね。

はああ。ため息は4度目。もう、ため息つくことないといいな?

飲み会の時間は終わり、僕らは店を出ることにした。酒を飲むのはいいが、もうこんな酒の席はイヤだな。情けないよ。僕は居酒屋の外から、居酒屋を恨めしげに見上げた。

「んじゃあ、俺はここで。定期切れてるから、渋谷から歩いて帰るわ。今日は楽しかったよ、久美子ちゃん、瑞恵ちゃん、ひかりちゃん。またねー。それと洋次もみっちーも。お前らはおまけだけどな」

僕はそう言うなり、右手を挙げ、バイバイと手を振った。クルリと振り返り、宮益坂を登り始めた。

5分ぐらい登ってから、僕はタバコを吸おうと思って、コートのポケットに手を突っ込んだ。しかし、タバコが見つからない。それどころか、誕生日にひかりにもらったライターもない。ああ、居酒屋に忘れたな。僕は苦い顔をして、宮益坂をもう一度降りだした。今日はどうやらついてないらしい。ポケットに手を深く突っ込み、僕はため息をついた。今日、5度目のため息は白かった。

前頭部を掻きながら、僕は店のノレンを再びくぐった。

「すいません、さっき個室を使っていた者なんですが、タバコとライター忘れてしまったんですけど」

「あ、はい。こちらですか?」

活きのいい店員はテキパキとタバコとライターを差し出した。握り部分の中心に長方形に銀が埋め込まれているライターは、まさしくひかりが僕にくれたライターだった。

「ああ、これです、これです。ありがとうございます」

「あの、後これもお忘れになられたようなんですが」

右手で、折り畳まれたスカーフを差し出した。ひかりのスカーフだ。あいつもそそっかしいな。まあ、いい。どうせまた会うんだし、それまで預かっておこう。僕は礼を言って、スカーフも受け取った。

外に出て、まずひかりに連絡してやろうと思ったので、僕はすぐに携帯に手を伸ばした。だが、そんな必要はなかったようだ。目の前にひかりが現れたのだ。

「ねえ。スカーフ、忘れちゃった」

ひかりが照れ隠しに舌をぺろっと出した。僕には、そんな様子のひかりがたまらなく可愛いい。頭にトンと手を置き、優しく僕は声をかけた。

「帰る途中にな、お前がスカーフしていなかったのに気づいたよ。だからな、取りに戻ってきたんだ、ここに。ほい。スカーフ」

僕はひかりの首にスカーフを巻き付けた。

「見ててくれたんだ。私のこと。ありがとう、浩介」

「当たり前だろ? 好きな人のことをきっちり見てない奴があるか?」

僕はひかりの肩を抱いた。そして、ひかりの目をじっと見つめた。ひかりの目がとろけてしまうんじゃないかと思うぐらいに、じっと見つめた。

「ねえ。浩介? 何でコンパなんかに来たの?」

「お前だって」

「私は久美子に頼まれたの。どうしても、どうしても来てくれって」