web小説「KURO-N(クローン)」END

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 (ピピッピピッピピッピピ)
携帯だ。
「もしもし、京極ですが。」
「京極さん、神原ですよ。無駄だということがわからないようですね。あなたがやろうとすることぐらい見えないわけないじゃないですか。面白いものをこれからお目にかけましょう。そこにいるんですよ。」
しわがれた声の電話は切れた。神原、確かにあそこで。そうか、まだクローンがいたのか。いや、今のはクローンじゃない。本物だ。本物を処理したなんて一言もいっていなかった。そうか。本体か。俺は拳を思いきり握りしめた。
サイレンの音が近づいてきた。消防車の到着のようだ。すごい速さで、こっちに向かってくる。サイレン音が大きくなり、俺の横を通り過ぎた。だが、俺はそこにとてつもない恐怖を感じた。
消防車には、俺だらけだったのだ。乗っている人も、運転している人も。神原は現実をジオラマと錯覚しているのだ。そして、俺はそのジオラマの中の一部分。俺を、現実をおもちゃ扱いしているのだ、神原は。
「もしもし、神原です。わかりますか?人間がいかに無力か。あなたの力だって、その程度なんですよ。あなたがどんなに私を捜して、私を殺しても、私はいくらでもできる。もっとも探すこととて、今のあなたにはもう無理ですがね。なにせ、あなたは無力な人間なんだから。」
「おい、神原。わかった、お前の提案をのもう。」
「今更、無駄なことはわかっているでしょう。それよりも、あなたはどうしますか。もう、今、あなたはあなたじゃない。フフ。」
神原。俺はもう俺じゃないというのか。もう、お前しか俺を知らない世界ができてるのか。嘘だ。そんなこと、嘘に決まってる。誰かにそうだと言ってもらいたかった。
自動車に乗り込むと、俺は塾には向かわなかった。一刻も早く、秘書の家に帰りたかった。今の俺の帰るべきところはそこしかない。直感的に、俺はそう感じた。だから、なるべく早く秘書に伝えねばならないことがあった。携帯のアンテナを伸ばして、俺は秘書のところに電波も飛ばした。
「おい、秘書か。誰が部屋に来てもいれるな。俺が来ても、そいつは偽物だ。本物の俺が部屋に入るときは、部屋の前のチャイムを二階押してから、電話をかけるから。いいな。」
「偽物って、この間のクローン?」
「そうだ。いいな。二階のチャイムと、電話が合図だ。」
「わかった。」
階段を駆け上り、秘書の部屋に帰ると、俺は秘書にこれまでの事の顛末を話した。そして、俺は最後に、もう、これまでの俺の生活はできないだろうと告げた。目を丸くして、秘書は驚きを隠せない様子だった。
「というわけだから、もう、俺には何もできない。俺はホント無力だな。」
「ううん、そんなことないよ。そんなに複雑に考えなきゃ、いいじゃん?」
秘書のその言葉に、俺は思わず、クリスタルのグラスを置いた。グラスの中の氷は、その勢いでグラスの中を飛び跳ねた。
「だってさあ、神原って人っだって、人間なんだから、どうにでも見つけようとすれば見つかるでしょ。それに、自分のクローンでてきたら、どんどん殺せばいいじゃない。だって、別に人間殺しているわけじゃないんだし。そんなに難しく考えることないと思うけどなあ。」
俺は馬鹿笑いをした。こんな簡単なことも思いつかなかったのか、俺は。そうだ、探すんだ。そうだ、殺せばいいんだ。自分が生きるのに、邪魔なモノを排除して何が悪い。
たまらなく秘書が可愛く思えた瞬間だった。
俺は秘書の着ていたグリーンのティシャツを脱がしにかかった。
「はは、そうだよ、そう来なきゃ。」
笑いながらも、自分でティシャツをかなぐり捨てる。俺もシャツを脱ぎ始めた。