web小説「KURO-N(クローン)」1

web小説

はじめに

評価はかなり悪いです。

心理描写が少ないことや、情景描写の非表面化によってわかりにくいからですね。

テーマは”人間の無力と感覚鈍化への狂気”

web小説「KURO-N(クローン)」1

 エリート塾講師とは、俺のことだ。この業界に入って、もう10年になる。働き先も、何度となく変えた。それは、俺を必要とする塾、来て欲しいと頼む塾に移籍するからだ。もちろん、条件次第だが。
今、俺は、西川崎進学ゼミナールの校長代理という肩書きで、教科は国語を教えている。講座の名前もあり、<京極の極強国語>という講座名だ。俺の受講生は、絶対、レベルアップする。なぜなら、俺が教えるからだ。
もっとも、これにはからくりがある。俺は受講生を選ぶのだ。自分で面接し、やる気がありそうで、素直で、ある程度の学力のある者しか、自分の受講生としないのだ。つまり、一流の素養のある人間しか、俺は自分の受講生として認めない。屑はいくら育てたって、屑。決して、磨いても、金にはならない。唯一、金鉱脈を持つ者だけが、それを磨くことによって、本物の金となることができるのだ。だから、俺の受講生はレベルアップできる。それにつれて、俺の名声もレベルアップする。
今年の入講生もその方針で受講生を選んだ。中には、もう、受講を必要としないほど優れた者もいる。しかし、塾というものは生徒がいて、成り立つもの。とくに、私の給料は(生徒の数)*(昨年の合格者数)*1000ということになっているので、少しでも優れた者は必ず受講生として入れる。
もちろん、出来損ないどもも入講を希望してくる。だが、俺はどんなにそいつらが頼んでも入れない。そいつらに能力がないから、実績がないから、素養がないからだ。ただ、それだけの理由だ。
しかし、そういう無能な連中の中には、親のコネを使ってくる者もいる。特に校長の紹介ということで、入講を希望してくる奴が一番困る。この塾で、俺が頭の上がらない奴はいないが、かりにも、この塾の経営者である校長には逆らわない。俺は資本家と労働者の争議を好まない。面倒くさいからだ。だから、角が立たないように、ひとりだけをその校長推薦の中から選んで入れてやることにしている。ただし、直接、金という誠意を数字で表示する紙を持ってくる者は別である。その誠意の重さによっては、俺は二つ返事で入講を許した。ただし、そういう奴はたいがい、落ちこぼれる。落ちこぼれ、堕落するのは目に見えていたから、入講させたくはないのだが。
だが、才能も学力もあるのに、それを活かす力の足りない人間もいる。俺からすれば、実に不思議な人間だ。今年は、そんな不思議な奴が受講を希望してきた。 そいつは、神原という名で、三河高校と、なかなかの名門高校に通っている。面接をしてみると、やる気もあり、頭も実によく切れていた。切れ味鋭いダイヤのパテのようである。しかし、実力テストの出来が最悪であった。
「神原君、君、こうやって話していると、すごく頭が良さそうなのだが。どうかね、この間の実力テスト、難しかったかね。」
俺は平素の口の聞き方は悪いが、公共の場での話し方は心得ている。そこが、人気講師である理由の第一点である。
「あ、はい。なんか、あまりに、高校で習っていたものとは違いすぎるんで。」
もじもじする様子もなく、ハキハキと答える。
「ええと、でも、三河高校だよね、君は?君と同じ学校の山田 悟を知っているかね?彼は出来はよくはなかったが、及第点は採ったよ。同じ高校だろ?」
「山田 悟なんて知りません。ですが、僕にはちょっと難しかったですね。でも、僕、先生の講義を聴きたいんです。」
目を爛々とさせて、情熱むき出しの目になっている。俺はこの手の熱血系の人間が好きではない。熱血系の人間に限って、しつこい。できもしないのに、努力でカバーだとか、根性だとか、くだらないことで獲物を狙おうとしている。それら自体が、すでに才能の部類に属していることさえ気づいていない。実に、愚かな人間のタイプだ。
「で、君は、ここに入って、どこの大学に行きたいのかね。」
「東昭大です。」
「ああ、東京昭和官製大学会?」
「ええ、そこの、科学研究部に入会したいんです。」
東京昭和官製大学会とは、名門とはかけ離れた学校である。ただ、政府の研究室があって、そこに入ることが許されるのは、そこの研究員だけなのである。だから、国の最新技術が学びたければ、ここの大学に入るほうがいい。
「ほう、理系なんだ、君は。私の授業は国語だよ。一流の国語の使い手にしてあげることは約束できるけど、理系としての能力は落ちるかもしれないよ。それでもいいんですか?」
理系で、なんで、国語の力が必要なんだ。要らないだろ、そんなもの。
「ええ、先生もご存じの通り、この大学は、国語の点数が優先されますんで。」
俺はそれを知らなかった。嫌みかと思い、少し、嫌な顔をした。
「どうかなされましたか?」
「いや、別に。君、それよりも、絶対に合格したいかね?」
「ええ、はい、必ず。」
鼻息が荒い奴である。やっぱり、俺にはこういう奴は性に合わない。実績もないのに、偉そうに平気でできますと言う奴が一番嫌いだ。できないなら、できないと言うべきだ。自己認識のできない奴ほど、手に負えないものはない。
「じゃあ、結果は、今度の月曜日。第三面談室前の廊下に張り出されるから。」
「どうも、今日はありがとうございました。」
ぺこりと下げた頭も憎らしいかった。その姿を見た時点で、落とすことを決めた。
後ろ姿の悠然としていて、いかにも、うかったような様子の奴が面白かった。
合格発表張り出しの日、俺は神原が見に来て、がっくりする様子が見たくなった。マイセンのヒレカツ弁当に箸を置き、俺は第三面接室前の廊下に行った。泣いている者、見てすぐ引き返す者、喜んでいる者、さぞ当然という顔をしている者。いろいろな顔が並んでいる中で、神原の顔が見えなかった。少し来るのが遅かったのかもしれない。奴のがっくりする様子を見て、残り少ない昼飯の御飯のおかずにしようと思っていたのに。自分の方ががっくりしてしまった。
昼飯を再開させる前に、俺は用を足すことにした。トイレに入り、俺は男性用便器の前に立った。ズボンのチャックを下ろし、水色のトランクスの前開きを探した。しかし、なぜかない。俺は、後ろ前にはいてきてしまったことに気づいた。道理で、朝からズボンがしっくりきていなくて気持ちが悪かったはずだ。仕方なく、用を足す前に個室便所に入った。そこで、ズボンを下ろして着替えを始めた。
ドアが開く音がする。誰かが入ってきたようである。しかも、泣いているように、スッスと鼻をすすっている。隣の個室便所に入ったようだ。鍵の締まった音がした。俺は自分の受講希望者が落ちたことを悲嘆して、泣いているのだろうと直感した。かわいそうにと思う反面、俺は少し楽しかった。人間誰にでもある虐待心。他をいじめることによって受ける快感というヤツだ。それが、甘い電流のように、俺の体全体に流れていた。
しかし、ここで笑ってばかりはいられない。もうすぐ、一時だ。TBSのお昼のドラマ<ぽっかぽか>が始まってしまう。俺は、急いでズボンをあげた。そして、個室便所の狭い空間を飛び出し、小用を急いで足した。これらのことは全部、大きな音を出しながら行った。お前の泣き声、聞いてたぞっと、個室便所にいる奴にプレッシャーをかけるために。そして、手も洗わずに、トイレを出て、自分の個室に帰った。急いでテレビをつけると、まだ、番組は始まっていないようである。ほっと、秘書の胸をなで下ろした。
「キャ。」秘書が金切り声をあげる。
「やあ、セクハラ、セクハラ。一度やってみたかったんだよね、セクハラ。」
嫌らしい親父の目で俺はほざく。