web小説「KURO-N(クローン)」11

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 朝、俺は爪を噛んでいた。なんとなく、噛みたかった。
「ねえ、今日、お休みでしょ。どうするの?何か予定あるの?」
「ああ、予定・・・。秘書だろ、俺の今日の予定は?」
「え、ない・・・。」
「そう。だから、今日は一日中ベットの中だ。さてと、こっちにきな。」
秘書は喜んで、俺のもとに来た。そして、俺は朝から秘書とセックスし続けた。そして、いつの間にやら眠り込んだ。
俺は次の日の予定も全てキャンセルし、一日中秘書とベットに居続けた。飯を食べることも止めて、ずっと抱き合っていた。ただ色狂いすること、夢中になってセックスすることが俺を癒した。喉の渇いたときに水を欲しがるように、俺は何度も秘書を欲しがった。そして、その水源をはなさなかった。
そうして、神原との約束の三日目になった
。 「ね、今日も?」
「いや、今日は一つだけやることがある。でも、すぐに帰ってくる、そしたら続きだ。」
「ねえ、何かやっぱりあったでしょ?変だよ、そんなに。」
「何が変なの。」
「何がって、こんなことなかったじゃん。」
現実から逃げたいことがそう何度もあってたまるか。こんなにも現実から逃げたくなることなんか、これまで一度もなかった。いつも、自分の力でどうにかできた。しかし。もうこれ以上、現実から逃げたくなるようなこと。絶対にもういやだ。
「ライターのオイル缶借りてくぜ。もう、オイル無いからさ。」
コートのポケットに、俺はジッポライターの交換オイルの缶を入れ、秘書のマンションを出た。いくら逃げたくても、現実はあるのだから、現実と向き合って闘わなければ。俺流に闘わなくちゃ。自分を励ましながら、俺は自動車を神原の家に急がせた。
裏庭を通り、俺は物置に入った。コトッコトッと、小気味のいい足音を響かせながら、俺は地下を降りる。降りると、神原は待っていたかのように、そこに座っていた。
「やあ、どうも。今回は、ちゃんとゴーグルをつけてますから、まぶしくは感じないでしょう。で、どうですか、ご返答は?わかってますがね。」
沈黙。
「了解とみなしていいんですね?」
再び沈黙。
「いいんですか。よかった。」
「お前の腑に落ちない顔を見たいから、俺は拒否するよ。」
「え?」
俺がヤツを驚かす番だった。
「だいたいなあ、生物を作るのは、神のやることだ。俺ら普通の人間がすることじゃない。お前は、神のすることに手を出しているんだ。自分で、俺の傲慢さを嫌いながら、お前は俺なんかよりももっと傲慢だ。神と同等に並ぼうとしているんだからな。だから、俺はお前が気に入らない。だから・・・。」
「だから、私の提案を断るというんですか。いいんですか、それで。」
「ああ、俺には国語講師としての俺流の解決方法がある。国語っていう学問はなあ、人によって、答えはいくらでもあるんだよ。自分流の答えがある学問だ。ただ大きな答えがある。その答えの載っている虎の巻を持っているのは神様だけなんだよ。ましてや、俺よりも国語力のないお前なんかがわかるはずないさ、人間っていう国語をね。人の答えがわかったような気になるな、勝手に!人間なんて、しょせん無力なんだよ。」
「ふ、愚かな人だ。他にどんな答えがあるというんだ。」
「これさ。」
俺はポケットからジッポライターのオイル缶を取り出した。そして、そこから勢いよくオイルを放った。オイルはションベンのように、ビニールハウスにかかった。俺はにやっと笑いながら、そこに火をつけた。一気にビニールハウスに火が引火していった。火の侵略は異様にはやい。
「おい、なんてことをするんだ、人類の大発明だぞ。」
俺には関係ない。俺の方がよっぽど大事だ。俺の気持ちを代弁するように、炎はまっしぐらに神原の方に向かっていった。神原は炎を避けるために、自然と俺のそばに逃げてきた。
オイル缶を神原に向けた。そして、ションベンをかけるように、俺は神原にも引っかけた。
「さて、神原、遺言は?ノートパソコンは向こう側だしなあ、スプリンクラーも役に立たないよなあ。もっとも、もともと水道は止めてあるよ、この家。さっき止めてきたから。」
「おい、やめろ!いい加減にしろ、俺が悪かった。見逃してやるから。」
「いいか、ものを頼むときは、上の立場で言うんじゃないよ。それに、俺の助かる道って、お前がいなくなること以外にないな。」
俺は燃えさかり、憤っている炎の中に神原を引っ張り投げた。神原がよろめきの体制からぬけた瞬間、炎が神原にまとわりついた。神原は何かを叫んだが、火の燃えさかる音にかき消された。もう、神原が何を言おうと、何をしようと知ったことではない。俺は自分を守ったのだ、自分の力で。
俺は階段を登り、物置を出た。そして、重い戸を閉めた。神原の家を出て、俺はすぐに消防署に電話を入れた。これでいい。警察側から、俺が捕まるには動機もなければ、証拠もない。すぐに消防車も来るだろうから、周りには迷惑もかからないだろう。俺は急いで現場を離れようとした。
(ピピッピピッピピッピピ)