web小説「願い」5

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「それは嘘だね。お前の意地汚い嘘だね。お前は何か隠している。もしかしたら、その女、ものすごいブスなのか。それで、さっき怒ったのか。外見のこと言ったから。」
そういう考え方しかできないのが、キジだ。俺は嘆息を一つ虚空に吐いた。そして、言うべきことのないキジに、救いようのないキジに、ギロッと一にらみをした。キジは受け止めるのでもなく、俺のあきらめを感じるのでもなく、ただそれを紙ノレンのように受け流した。キジと中村は、俺をからかうのに飽きたのか、別の話題に話を咲かせ始めた。その話題は俺にとって、どうでもいいことだった。どうでもよくないのは、思い出してしまった平林藍のことである。ふと横を見ると、平林藍が隣にいるような錯覚にとらわれる。土手沿いの帰路ずっと、キジと中村が別の話をしている最中、俺は遠ざかるあの日の、肩を並べて歩いていた平林藍を忘れることができずにいた。白く長い雲のしっぽが、俺には見ることができなかった。  部屋に帰り着いたときも、俺の頭の中は平林色に染まっていた。鞄をベットに放り投げ、制服をハンガーに掛ける。そんな仕草の間にも、十秒たりとも、平林藍がまぶたをうろつかないことはない。青のティシャツが横になったとき、俺は胸に手を当てた。  実際、俺には、初めての体験だった、こんなにも、自分以外の人間を好きでいられることが。人を好きになることはすばらしいことだと、偉人たちはよく言ったものだ。確かに、一人の人間を底なく思い続けることはすばらしいことだ。だが、今の俺には、白いシーツの上にたらした墨汁のように、はっきりとこの恋というものはすばらしいものなのだという自覚と同時に、苦しいものであるということも認識した。会えない辛さや、相手が自分のことをどう想っているのかという不安、そして、どんなに相手のことを思っても、何一つしてあげることのできない無力な自分への自己嫌悪。相手への想いが募れば募るほど、これらの苦さが高まっていく。好きになればなるほど、この苦しみの深みにはまっていく。底なしに引き込まれていきそうだ。枕に頭を載せたまま、そんな自分というものを自覚していた。時計の動く音が聞こえるほど、静かな時間だった。  いつしか、俺は眠っていたようだ。もう、日は落ちていた。腹が減ってはいたが、食欲というもののかけらもなかった。それよりも、少し夜風に当たりたかった。ブラッとした散歩。涼しく、重い風が寝汗をかいた体を冷ましてくれるだろう。俺は静かに麻の上着を着た。そして、行ってきますと、部屋の中に言い残していった。  一歩外に踏み出すと、何ともいえない暑さが広がっていた。変な湿気が充満している。雷神の一雨を期待して、俺はアスファルトの一本道を歩き出した。とりあえず、近くのカール公園に行くつもりだった。  あそこには、いろいろな思い出がある。幼稚園の時に強くブランコをこがれて、あまりの恐さで泣き出してしまった思い出や、犬の糞とは知らずにギュッと握ってしまった砂の思い出。また、小学校や中学校の時の嫌な思い出は全部ここにしまってある。だから、ここに来ると、その時々の苦しさすべてが目の中にまざまざとよみがえってくる。俺はそれを目をつぶってみるのが好きだ。自虐的ではあるが、その時の自分よりも今の自分はずっと強くなったという優越感から、今の自分が救われるような気分になれるからだ。人間の、誰もがする成長というものではあるが、身の成長をまるで自分の子供の成長を見るように、目を細めて見つめるのだ。  カール公園の入り口近くにある汚れた木製のベンチが、俺の所定のポジションだ。そこからは、この公園全体が見渡せたし、何よりも時計台がくっきりと、大きい黒一面の夜空に映し出されて見える。それがとても気に入っている光景だ。それゆえ、いつも通りに、俺は足を組み、無造作にそのベンチに座った。  座り込んで、俺は闇に身を紛れさせるために、目をつぶった。いつもそうやって、苦しみを埋めてきた。そうやって、辛さをやり過ごしてきた。車が走る。その音だけが、闇の耳に入ってくる唯一の人工音だ。風が草草をさする音や、砂場の砂がさすらっていく音。ベンチの上に屋根の代わりに組まれている竹に風がぶつかる音。それらすべて、夜風が巻き起こす音が、自然と耳に吸収されていく。吸収されていくうちに、俺は段々と自然に同化していく。刻々と、体が風を感じなくなり、そして無の境地とでもいうのか、体が軽く、さっきまでまとっていた重苦しさが抜けていく。体が脱力していることがわかる。骨が締まっていくような心地よさだ。  と、いつもなら、そういくのだが、今日はそういうわけにはいかなかった。目をつぶって、自然に同化しようとすると、笑い声が聞こえてくるのだ。そう、彼女の、かん高く、焼き付いた弾むリズムの、笑い声が聞こえてくるのだ。そして、それがまぶたに平林藍の顔を浮かび上がらせる。刹那、背筋がかーっと熱くなる。笑い声が高まり、弾んだ顔がより鮮明になってくると、どうしても我慢できなくなり、目を開けてしまう。しかし、目を開ければ、そこにあるのは、ただ末広がりに広がる闇のみだ。ここに見える闇は、心の中にある靄よりもずっと明るい。だが、俺にとって、その度合いは関係ない。どっちがより明るかろうと、そのどちらもせつなさを思い知らせる点で同じなのだ。このせつなさから俺を解放してくれるだろうと思われた公園も、俺を助けることはできなかった。目には自然と地面が映り、首はうなだれた。  近くで、急にシュボッという音が聞こえた。俺は唐突な音の戦慄に、その音の発信源に目を剥けた。すると、入り口の柱にもたれかかって、黒い革ジャンを身につけた男が立っていた。そこは、まるで、その男をスポットライトが照らすように、街灯が皓々と当たっている。よく見ると、手には10センチぐらいの一筋の煙を吐いているタバコを持っていた。どうやら、音の発生源は、その男のタバコをつけたライターのようだ。  ふと、その時に、俺は思った。タバコの麻薬性を思ったのである。タバコというものは、ある程度の量を吸うと、麻薬と同じ効果が得られるということを、小学五年生のときの自由研究の時に、何かの本で読んだ気がする。ということは、嫌なことを忘れられるということであろうか。妙に気分が高揚してくる、そういうことであろうか。きっと、吸うとそうなるのだろう。うらやましい。そう感じたときには、夜に咲いた一輪のタバコの火を見ては、口の中で「シュボッ」という音を繰り返していた。口で発声するわけもわからず、壊れたレコーダーのように、俺はつぶやいていた。  そんなぼんやりの中から、俺を呼ぶ声が聞こえる。
「古西くーん。古西君だよね?今、君んち、行くとこだったんだ。ちょうど、良かった。道に迷って困ったよ。本当に困った、困った。」
それは吉川の恋人であるナントカ恵子であった。あまり、吉川のことを知らない俺は、恋人の名前が恵子という名前までは覚えていたのだが、名字までは知らなかった。そんな俺にこの恵子は、何の用なのであろうか。わざわざ、家に来ようとまでする用とは何だろう。それを思うと、自然と首は傾いた。
「道に迷ったのなら、吉川を呼べばいいじゃん。まあ、いいけど。無事に俺に会えたんだから。で、何の用なのかな。」

「うーん、正確に言うと、わたしの用じゃないんだー。ほら、覚えてる?この前のコンパで、あなたに会いたくって来た子のこと。吉川が話していたでしょ。」
もちろん、俺は覚えていた。俺みたいにぶっきらぼうで、三枚目なこの顔を好くような変わった人間のことを忘れるわけもない。おそらく、香美ちゃんのことであろう。あの鶴田真由の唇を思い出した。
「ああ、もちろん、覚えてるよ。香美ちゃんだったっけ?」

「そう、その香美のことでね。あなたに、話があるんですって。香美が。」

「え、でも、彼女いないじゃん。」

「うん。香美は今すぐ来るよ。道に迷って、とりあえず、休憩しようとして、ここの公園に寄ったの。ベンチを探し歩いてたら、古西君がいるんだもん。運命って、不思議ね。」

「ああ、不思議さ。とくに、どこで、誰に会うかなんてな。」
そう言うと、頭に平林藍との出会いがプクンと浮かんだ。おかしかった、あの出会いは。ぷっと、俺は吹き出してしまった。
「でもね、吉川に私が香美をここに連れてきたのは内緒ね。吉川、なんだかいい顔しなくって。あなたと、香美はあわないとか言ってるし。何か怪しいのよね、あの態度。ひょっとしたら、吉川、香美に気があるんじゃないかって思っちゃうよ。まあ、これって、嫉妬って言うんだよね、みっともないね。確証もないのに。」
妙に最後の方は自嘲気味であった恵子の様子が少し気になった。だが、気になっていたのは、ほんの数秒で、その数秒後には、香美ちゃんが恵子の隣に現れた。ヒョコンと挨拶をしてから、俺の隣にゆっくりと座った。
「ねえ。恵子、ここにいてくんない?」

「え、ああ、いいけど。」
恵子は驚いた様子ではあったが、それを少し表情に出しただけで、またすぐに平静な顔つきに戻った。
「あの、古西君。今日は、ちょっとお話があってきました。」
俺は声を出せなかった。妙な改まりようと緊張感が空気を白くさせる。
「古西君、私とつきあってくれませんか。」
一瞬、風が強くそよいだ。
「告白って、普通男の方からするって言うけど、私は好きな人には言いたいよ、好きって。だから、あの、つきあってくれませんか?」
突然に驚きはしたが、俺に告白される予感がなかったといえば、それは嘘になる。吉川から、香美ちゃんの俺に寄せる思いを聞いているのだから、想像できないことはなかった。話と言えば、香美ちゃんの用って、これしかないであろうとは思ってはいた。しかし、俺は自分にそこまで自信のある人間じゃないから、俺に告白するまで好きではないであろうと多寡をくくっていたのだ。だが、現実に、香美ちゃんは告ったのだ。告ったばかりの唇は余韻を残して、かすかに揺れていた。
「うーん、香美ちゃん。ゴメン。俺、そういうのできないんだ。」
即答した。俺の答えはNOだ。相手の気持ちを考えたら、少しは考えてみるというのが筋なのだろうが、俺は自分の気持ちに正直にいたかった。俺の好きな奴は、平林藍。出会って、一週間も経ってない。共有した時間は、たったの六時間ぐらい。そんな関係だが、俺が好きなのは平林藍だ。
「そうなんだ。私じゃダメなんだ。ダメなんだね。」
声が段々聞こえなくなっていく。遠くなっていく声が、俺には距離を感じさせた。
「ゴメン。」
俺は謝った。今度は、断りのゴメンではなく、誤りのごめんなさいだった。
「うん、じゃあ、用は済んだから、私、行くね。じゃあ。」
後ろ姿をさっと俺に見せつけて、香美ちゃんは去っていく。まるで、初めての遠足を雨で流された子供が代わりに学校に行くように、肩を落としてゆっくりと歩き始めていた。
「何で、ダメなの。香美のこと、何でダメなの?」
あせって、恵子はたずねた。恵子はこの展開を考えてもみなかったのだろう。きっと、うまくいく。そう思っていたに違いない。自信満々の色が、予想外の展開によって、焦りと驚愕の色に豹変していた。
「今、俺には、好きな女の子がいるんだ。向こうの気持ちはわかんないけど、好きなんだ、すごく。好きで、好きでたまんない。出会いって、本当に不思議なもんだよ。もし、香美ちゃんにそいつよりも先に会っていたら、香美ちゃんのこと、好きになったかもしれない。でも、現実は違う。先に会ったのは、そいつで、今、好きなのは、その女の子なんだ。わかるだろ、恋な人間の気持ちって。君にも、吉川がいるだろ?」

「でも、少しはチャンスあるよね?」
食い下がる恵子を叩きのめすように、俺は言い放った。ない、と。
「わかった。香美にはちゃんとそう言っておくから。うん、じゃあ、また。」
一息にそれを言い終えると、恵子は先に真っ黒な闇の中に消えていった香美ちゃんを追いかけていった。走っていってしまった。俺は、また一人になった。  またシュボッという音が、俺のもやついた胸の中で繰り返され始めた。そして、シュボっによって、そのもやの中に明かりがついた。俺は香美ちゃんの告白によって、何かを気づかされた。それは自分が平林藍に告白しようと思っても、絶対にできないということだ。なぜなら、告白しても意味がないからだ。馬鹿げているだけで、何の意味もなさない。胸を張り裂くほどの好意を告白したところで、何になろうか。今の俺には、何一つしてあげられない。生活力もないし、一緒にいてあげられることもできない。さらに、今年、俺は受験生だ。今年すべきことは、自分のこの才能を活かして、自分を磨くための大学へと進学を決めることだ。いくら好きでも、どんなに一緒にいたくとも、時の流れが許すまい。せっかく、初めて自分以外の人間を好きになれたのに。たっぷり、その人を愛せたのに。  俺は変化のない空を見上げては、仕方のない今を見ることを拒否した。なぜなら、今を見れば、儚いまでのこの想いを潰そうとする現実を呪いだすからだ。だからといって、この想いを伝えたとて、決して解決にはならない。むしろ、彼女を守れないことへの自己嫌悪で余計に苦しむことになるかもしれない。今できる最上の解決策は、彼女を忘れることかもしれない。いや、彼女など始めから見なかったのだ。彼女とは出会っていない。平林藍なんて、名前、一度も聞いたことがない。そんな風にすべてを、この記憶から取り去りたかった。この記憶を簡単にフォーマットできるのであれば、俺は何にでもすがる。何でもつかむ。それが、今の俺の願いだ。  そして、つかんだのが、あのシュボッという音だ。あの音によって、火をつけるタバコに、俺は逃げ道を作った。自販機から降りてきたときの生誕のドサッという音が、俺とタバコの利害関係に縁を結びつけたのだ。俺はその夜からタバコにすがるようになった。一本目のタバコに、俺はフォーマットの期待を込めて火をつけた。深呼吸をするかのように、思いっきり吸い込んだ。そして、できる限り大きく吐いた。二本目のタバコには、さらなる期待をかけて火をつけて吸った。吸い込みが大きく、吐き出す息が多いほどに、記憶が体の外に出されるような錯覚に陥っていた。その夜、火をつけるライターの火が揺れるほどに白煙を吸い込んだ。ヘロヘロになるまで、俺は吸い続けた。そうすることが、俺を救った。恋を捨てることも、進めることもできない俺を幾分か救った。ほんの少しだが、願いは満たされたような気がした。  知らないうちに、俺はタバコの渇きを覚えている唇をさすっていた。安田みくは、そんな俺の様子を静かに見守っていた。そして、何かを言い出そうとして、安田みくは口を手で止めた。安田みくと俺は宮城さんの来るまで、それから一言も口をきかなかった。
「おお、お前ら、来てたか。よしよし、逃げなかったな、古西。」
何の前触れもなく開かれたドアから入ってきた宮城さんは、入るなり、われ鐘のような声をあげた。
「何だ、二人は黙っちゃって。クラスメートだろ?何かしゃべれよ。お前ら。お見合いのつもりか。これはそういう呼び出しじゃなくって、お前らの進路の話だぞ。さてさて、みく。お前は何を考えているんだ。いちおう、大学受験って何だ、これ?それに、この落書き。勉強やるんなら受験する、やらないなら働く。どっちかにしろ。お前はどうしたいんだ?何がしたいんだ?」
しなる鞭が空を打つように、宮城さんの言葉が安田みくに向かって空を切る。
「私は、栄養の勉強がしたいんです。でも、先生にもなりたいなっと思って。でも、どっちも勉強は大変だから。私みたいなバカじゃダメかなって思って。」
下を向きながら、縮こまった声で、安田みくは口を動かした。
「バカ。自分の力を信じろ。ここまで生きてこれたんだぞ。それだけでも十分すごいことなんだ。どっちもしたいことなんだろ?自分でやりたいことは自分でやり通す。どっちも捨てるんでもなく、自分でどっちも果敢に攻めて、手に入れろ。自分は天才だぐらいの自信を持って、受験勉強してみろ。そりゃ、今のお前の学力では確かに受験はきつい。でも、一年もある。絶対、間に合う。だから、あきらめるな。いいな!」
ほとばしるほどの熱血調は、僕の心にも打つものがあった。確かに、欲しいもののためならば、果敢に攻めるべきかもしれない。でも、それは理屈だ。俺がもし、平林藍を欲しいから、手に入れたいからといって、がんばって手に入れても、何をしてあげられようか。俺には何もできないんだ。それよりも、今は、自分にとって大事な人を側に置いておけるような環境を作るために、勉強しなければならないのではないだろうか。だから、受験勉強に身を打ち込むべきなのではないだろうか。当たり前の生活をするために、当たり前の努力をする。それが、自然なのではないか。  安田みくの沈黙の間、俺は何度も自問していた。
「みく、がんばれ。きついよ、大変だよ、勉強は。でもな、みんな、それをやってきているんだ。明日輝くために、今は泥の中につかろうや。いいじゃないか。これから一年は、苦しい年だろう。でもな、一皮剥けるためには仕方がない。自分の限界を超える。そのための充電期間だと思って、勉強してみろよ。」
勢いの強かった語調は、柔らかくなっていった。みくは、その柔らかくなっていく語調につられるように、顔を段々と上げていった。そして、宮城さんの目が、とうとう安田みくの目をとらえた。安田みくは肯いた。
「よし。さてと、今度はお前だ。お前は、白紙だったな。どうーして、白紙なんだ。何かやりたいことはないのか?」
何もない。ただ、俺は楽しく生きられればそれでいい。大学進学とて、特段にしたいわけではない。ただ、普通の生活を送るために。ただ、大事な人を側に置くことのできる環境を築くために、大学に行くことを考えているだけだ。
「特にありません。」
意志に従って、俺は静かに答えた。
「何でだ?何かやりたい職業とかないのか?」

「いえ、ありません。」

「お前は、学力こそ、確かに低い。だけどな、IQではうちでトップだ。それになあ、文系でも、理系でもお前はどっちにも行ける。それぐらいの能力があることは、俺が保証している。それなのに、何もしたくないっていうのか。もったいないじゃないか。」
俺は黙った。どんなに熱く語ったところで、俺にはそれは通用しない。やがて、宮城さんは俺の黙りにあきらめを見いだしたらしく、腕を組み直してから、ため息混じりに語りだした。
「わかった。もう少し、よく考えろよな。親に相談でもしろ、友達にいろいろ聞いてみろ。俺が言えるのは、今はそれだけだ。」
宮城さんは難しい顔をしていた。俺は、その難しい顔の意味を悟るほどに賢くなかった。俺は一礼をすると、嫌な客から離れるホステスのように、宮城さんのいる空間からすばやく立ち去った。安田みくも一礼をしてから、俺の後を追うように美術室から出てきた。
「古西君。今の本当?本当にやりたいことないの?」
息せき切って、安田みくは俺の隣まで一階への階段を駆け上がってきた。
「ああ、ないよ。」