web小説「僕と智美の最後の冒険」END

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そんな瞬間だった。智美は止まった。そして、もたれかかるように、僕に抱きついた。突然で驚きはしたが、僕はしっかりと智美を抱きしめた。今までだって、何度も抱いた智美だったが、今日ほど重く感じたことはなかった。智美の髪の香りを強く感じながら、僕は智美との時間を生きた。明日からはないかもしれない、智美との大切な時間を生きた。
「ねえ。今日、ずっと一緒にいよ!」
答える代わりに、僕は智美を離した。
「智美、俺は気持ちに負けたくない。今日、一緒にいたら、きっとお前を行かせたくなくなる。それって、嫌だ。だから、ここで別れようよ。」
「え。だって、最後だから。」
「明日、行くの辛いから、送りには行かない。けど、手紙書いてくれよな。俺も絶対行くからな、お前のとこ。」
自分でも声が震えているのがわかった。智美の目が潤んでいるのもわかった。僕の心はこれ以上ないほどに煮えたぎっている。それでも、僕は理性のカーテンで、煮えたぎった心を隠した。自分に見えないようにした。
「渉。好きだよ。」
「ああ、俺も智美のこと愛してる。きっと、俺が初めて自分で選んで愛している人だ。だから、帰って来ても、絶対一緒にいてくれるよな。」
「うん。」
可愛い返事だった。可愛いと感じた僕は、智美をもう一度強く抱き締めた。智美の臭いを僕に植え付けるために、強く強く抱きしめた。その時、僕は目を細めていた。

次の日、僕は家の外で飛行機が空を行くのを眺めていた。

《たく、イヤンなっちゃう。相変わらず、自己陶酔の強い人で。だいたい、何で霧はあんな人を私に押しつけたの。霧は、本当に私に合うと思ったわけ?まあ、確かに最初はよかったけど、あの人、言うことがクサイのよね。それに性格も変に一途だし。ヤになっちゃったわよ。でも、ちゃんと、片づけ方教えてくれてアリガト。これで、私も渉から解放されるわ。ヨカッタ、ヨカッタ。釧路の方にはいい男いますか?いたら、絶対紹介してね。                            智美より

P.S・・・だいたい、渉と結婚したら、私、里見智美になっちゃうわよ。そんなの、私からしたら、絶対ヤダからね。》

大きな塊の雪がポトポトと降る。窓は部屋の温度で曇っていた。パソコンのモニターで疲れた目を休ませようと、霧は窓の外を見た。しばらく経ってから、思いついたようにガラスに指を当てて、文字を書き出した。窓への落書きをひとしきりして、霧はクスッと笑った。そして、再びパソコンのモニターに顔をつきあわせた。これからメールを出すのだ。里見 渉に、ひと月ほどしたら東京に戻るという内容のメールを。

ガラス窓に書かれた”里見 霧”の文字は、いつしか泣き出していた。泣き出して、崩れてしまっていた。残っているのは、ガラスの汚れだった。