web小説「僕と智美の最後の冒険」1

web小説「僕と智美の最後の冒険」1

読みやすさにかけては、私の作品では1,2を争うと思います。テンポの良さが売りですね。自己評価はまあまあというところですね。現実感というよりも、あれっというストーリー展開に主眼をおいてますから。
内容は一組のカップルのお話です。彼女が留学を言い出してからの男の葛藤を主に、最後の逆転劇までを描きます。


《渉くんへ。渉くん、最近、そっちはどうですか。ちゃんと司法試験の勉強はしていますか。また、ろくでもない小説ばかりを書いているのではありませんか。釧路では、今年初めての雪が降りました。もうすぐ、暗い空の冬です。東京も暗く、寒くなってきていますか。智美ともうまくやっているんですか。智美を紹介した者として、智美の面倒はしっかり見て欲しいな。それに智美は私の大事な友達。絶対、泣かしたりしないでね。

でも、渉くんも淋しくなるね。智美、今度パリに留学するんだってね。智美の昔からの夢だったから、私としては、智美の夢がかなったことを祝福したいけど。でも、渉くんのことを考えると、一概には喜べないよね。渉くんはどう思ってるの。智美を止める気なの。その辺のところ、興味津々だね。

じゃあ、今日はこの辺で。また、メールちょうだいね。 霧より 》

僕は愕然とした。智美には一言も留学するなんて言われていない。アイツがパリに留学するなんて。

確かに、智美は常々ファッションの勉強をするんなら、パリに行って、有名なデザイナーのもとで勉強したいと言っていたが、まさか、こんな形で突然にパリに行くなんて。

僕が智美に出会ったのは、大学一年のころだった。その頃僕は、難しい顔で難解な言葉を振りかざす教授たちの授業に飽き飽きしている、普通の怠け者大学生だった。そして、今を楽しく生きれればいいと思っていて、毎日をただ遊んで費やしていた。そんな僕がある日、お茶の水をぶらついているときに偶然出食わしたのが、高校の時の同級生だった霧だった。そして、その横で、霧よりも偉そうに歩いていたのが、智美だった。僕らは再会を祝して、その日、智美と霧と僕で飲みに行った。

それ以来、僕と智美、霧との交友関係は続き、よく三人で遊び歩いた。だが、霧はいつの間にか彼氏を作ってしまい、三人での約束をすっぽかすようになった。その結果、僕と智美はだんだんと二人だけでいる時間が多くなり、砂時計の砂が落ちるように少しづつ、僕は智美にひかれていった。智美に会う度に、僕は智美の意地っ張りなところや、自分に真面目な性格が好きになり、可愛く愛おしく思えていった。そして、出会ってから3ヶ月後の夜に、僕は智美に告白した。つきあってくれませんか、と。その意思表示の結果、僕は智美とつきあうようになった。

だが、そこからが僕と智美との冒険の始まりだった。智美という人間は、常にハプニングをもたらした。二人で呑んでいれば、隣の客に話しかけたりして、何でも素直に思ったことをズバズバと言う性格が災いして、隣の客に喧嘩をふっかけられたこともあった。

また、親と喧嘩をしたと、夜中の二時頃に電話をしてきて、二人で夜の新宿公園を歩き通したこともあった。二人で、スキー場でナイタースキーに行って、迷子になったこともあった。

でも、いつも二人で協力して、一緒に問題をくぐり抜けてきた二人だった。何でも話し合え、何でも共有する、そんな仲だった。それがどうだろう。パリへの留学の話なんか、僕は少しも聞いたことがなかった。僕と智美の仲は薄れてきているのか。僕らの間に、知らず知らずのうちに壁ができていたのか。僕は初めて智美が留学するということを知ったことへのショックと、智美が話してくれなかったことへのショック、そして智美がいなくなることへのショック。そんな三重奏に、一晩中、頭をかきむしられるような思いだった。強い寒風が雨戸を揺らす度に、僕は何かにビクつき、何かが壊れていっているような気がしていた。

朝になった。僕の部屋に、オレンジ色の朝の光が射し込んできた。眠れなかったことから来る疲れか、それとも整理のつかない心の動揺のせいか。僕は焦点の定まらない目をぎょろぎょろと動かしては、ため息を突き続けた。やがて、いつも定時になるようにセットしている目覚ましが、重々しい空気の部屋に鳴り響いた。目覚ましさえも、僕には重々しく聞こえる。

まぶしい太陽が天高く昇りきったころ、僕は智美に会いに、智美の大学の科学研究棟の近くにいた。とりあえず、留学の話が本当かどうか、本人から聞きたい。もしかしたら、強がりの智美の嘘かもしれない。いや、僕としては、嘘であって欲しかった。嘘であれば、どんなに僕の心は晴れ晴れとすることか。僕の心と対照的に、青く澄み切って暗さの欠片も見えない空が、僕には神様の嫌みにしか取れなかった。

科学研究棟の化学研究員控え室のドアは、いつもさっぱりとしている。クリーム色に塗られたドアが厳かな感じを漂わせる。そんな緊張感漂うドアを開けて、中を覗いてみた。中には、栗原という男が一人机に向かってラーメンをすすっているだけだった。
「あの、本城 智美さんはいますか?」
ラーメンを熱心にすすっていた栗原は、その声に訪問者がいたことに気づき、初めてこちらに顔を向けた。
「ああ、智美さんの彼氏さんですね。えーと、前にお会いしたことありましたね?」
「あ、はい。いつも、智美がご迷惑かけています。ところで、智美はいますか?」
「ええ、いますよ、ほら、そこに。」
栗原の指の先には、智美はいなかった。思わず、僕は呆気にとられた。
「え、あ。いませんね、さっきまでここにいたんですがね。ちょっと待っていてください、誰かに聞いてきますから。」
栗原は、間違えた恥ずかしさを消すために、あわてて席を立った。

栗原という男は物事に集中し出すと、周りが見えなくなる人なのであろう。そんなことを思いながら待っていると、ほどなくして、栗原が智美を連れて戻ってきた。
「渉。なに?こんな昼間から。」
智美はいらだった様子だった。研究所に僕が顔を出したことが嫌だったのであろう。
「ああ、話があるんだ。大切な話だ。」
「・・・わかったわ。じゃあ、後五分だけ待ってて。そこにでも座っていてよ。」
僕はやや遠慮がちに座り、後ろ姿の智美に強い視線を送った。