web小説「僕と智美の最後の冒険」3

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しかし、そうこう考えたり、悩んでいるうちに、時間は過ぎていく。僕と智美はその間に何度となく会い、僕は何度となく智美の未来予想図を聞いた。楽しそうに未来の夢を語る智美に、行くなの一言はどうしても出しにくい。それに、僕とて行かせたい。自分の問題がないのであれば。だが、気持ちという自分の問題が、高い壁のように、僕の智美への行かせたいという気持ちに、高く高くそびえ立っている。

《いよいよ来週だね。智美がいなくなってしまったら、淋しいかもしれないけど、自分のことをがんばるんだよ。智美が自分を磨いているうちに、渉だって、自分を磨かなくちゃいけないんだよ。そうしないと、智美の気持ちだって逃げていっちゃうぞ。なんてね、脅しておこうと思って。                霧より》

霧のメールを見てはため息をつく。もう、来週なんだな。そう思うと、僕の体が真ん中から朽ち果てていくような感じがした。たった一人いなくなるということで、こんなにも人間というものは気持ちが揺れるものなのだろうか。人間というものは、こんなにも弱いものなのだろうか。時間にも、そして他の人間にも弱く、自分に降りかかる災難さえ振り払えない。人間って、そんなにも弱いものなのだろうか。

窮屈な気持ちのまま、僕はなんとなく街に出た。静かで、暗く、寒い。そんな夜の街を歩きたかった。何キロとなく歩いて、泥のように足を疲れさせて、そして、マネキンのように眠ることが、智美のことを忘れさせる唯一の手段のように思えたからだ。僕は国道沿いを歩いた。環八を歩き続けた。

すると、急に一台の灰色の車が僕の横に止まった。窓が音もなくあがっていく。
「おい、どうした、こんな時間に。」
サングラスをかけた西崎先輩だった。
「先輩こそ、どうしたんですか、こんなところで?」
「ああ、俺はこれから気分晴らしに海に行こうと思ってな。夜の波って、見てると気持ちがスーッとするんだ。いいぞー。それに今から行けば、朝から釣りもできるしな。」
「そうなんですか。いいですね。」
「どうだ、里見。お前も行くか?どうせ、俺は一人だし。」
「ええ、いいんですか。」
先輩の、夜の波という言葉に、僕の行きたいという気持ちはそそられた。なんだか見てみたくなった。
「おお、来いよ。さあ、ほれ。」
ドアが閉まるのと同時に、灰色の車は発進した。その勢いは、後ろのものを突き倒すような強い風を残すほどだった。

約二時間ほどして、車は由比ヶ浜に入った。先輩は夜の運転に慣れているらしく、一度も、僕が冷や汗をかくようなことはなかった。むしろ、車の中の暖房から、僕はなんだか眠くなってきていた。
「寝ても、いいぞ。ただし、もうすぐ着くけどな・。」
「あ、はい。もうすぐですか。」
「そうだよ。見てみ、窓から外を。耳をそばだててみ、波の音が聞こえるから。」
僕は、先輩のいった通りに、窓から外を見てみた。よく見えないので、窓を開けてもらう。すると、生臭い潮の香りが僕の鼻孔を刺激した。その臭いに我慢して、よく目を凝らしてみた。そこは海であった。だが、僕が見てきた海とは違い、どす黒かった。そして、ひどく荒れていた。引きつけを起こした赤ん坊のように、何の手の施しようもない感じだった。
「どうだ。雄大な海だろ?」
「はい、すごく、強い感じがしますね。」
岩壁にぶつかる津波を思い出させる。昼間の波とは、勢いが全然違う。あまりの波の激しさに、眠気が吹き飛ばされたようだ。

二十分ほど進むうちに、車はパーキングに止まった。そして、先輩と僕は近くのコンビニに買い出しに行き、ビールを二本ずつ買った。僕は四本ものビールと抱えるには少し大きい毛布を持っているせいで、前が見えなく、幾度となく砂に足を取られた。その後ろを先輩が悠々と歩いている。一度も転びそうにならない。先輩が歩き慣れているせいもあるが、よく足をもたつかせる僕は無様だった。