青春小説「怖くて飛べない!」END

青春小説「怖くて飛べない!」END

昼過ぎだか、僕は眠っていた。居酒屋の仕事をやるようになってから、僕の眠る時間帯は昼になっていたからだ。大都市東京を春一番の残党が吹き荒れている日。僕は外の強い風の音のせいでなかなか寝付けず、何度も繰り返し繰り返し寝返りを打っていた。だが、とうとうカンシャクを起こして、布団の上に座り込んだ。眠ることをあきらめた。頭をカキカキ、ぼんやりとする。何時だろうと思い、とりあえず携帯電話の電源を入れた。デジタルの数字は12だった。まだ寝ていられる時間だ。寝ようかとも思ったが、のどが渇いていたので水を飲むことにした。色のぼけた冷蔵庫を開け、六甲のおいしい水を取り出す。流しにある水滴の付いたコップを手に取り、僕は勢いよく水を注いだ。コップに口をつけて、水を喉に流し込んだ。喉で水を飲むと、喉の乾燥がとれて気持ちがいい。六甲のおいしい水を片づけようと思い、冷蔵庫の方にむき直す。

すると、冷蔵庫に貼ってあるカレンダーが目についた。思えば、今日は恵理香が大阪に行く日だった。

「出発か」

僕は見送りに行かないことを決めていた。恵理香には見送りに行かないことを告げてはいなかった。だが、僕が来ないことぐらい恵理香も予想していただろう。教会で花嫁に向かって告白した男が見送りになど行けるはずがない。だいたい、まともに恵理香の顔を見られる自信がない。

しかし、恵理香とも当分お別れだ。結婚もしたし、旦那について大阪には行くし。恵理香にとっては良いことずくめなのだ。そう思うと、気が楽になってきた。見送りに行かないという僕の判断に間違いはなかっただろう。きっと。

「タンタッタターン、タンタッタターン」

僕は鼻歌混じりに結婚式の入場曲を歌う。なんだかひどく不思議な気持ちだった。

その時、藤井ふみやの”TURE LOVE”が鳴りだした。携帯電話の着信音だ。流しにコップを置くと、僕は電話を取った。

「もしもし」

「安藤? 今どこにいるの?」

恵理香からだった。僕が見送りに来ると思っていたようだ。恵理香の声は純粋で、優しかった。純粋に僕に見送りに来て欲しかったようだ。

「今、家だよ。見送りには行けないんだ。ごめんな」

ゴメンナ。どうしても行けなかったよ。どんな顔をして会ったらいいのかわからなかったよ。

「そう。ううん。別にいいよ。仕事忙しいんでしょ? また最初からの出直しだもんね。頑張ってね」

「ありがとう」

「ねえ、時間ができたら遊びに来なよ。町田と待ってる」

わかった。わかった。もういいから。

「わかった。アリガトウ」

「安藤が言っていたとおり、誰にも未来はわからないんだよね。私も私がどうなるかわからなくって、不安で仕方がなかったときあったもんね。安藤の気持ち、わかってあげられなくてゴメンね」

いや、恵理香のせいじゃない。僕が臆病だったからだよ。怖くて何もできなかった僕のせいだよ。

「いいよ。それよりも、幸せでいてね」

「うん、向こうで頑張る。ゴメン、もう時間だ。また電話する」

「ああ」

「じゃあね」

「また」

素早く僕は電話を切った。恵理香からの着信を消そうと思い、僕は携帯電話を操作する。公衆電話からかけてきたことを通知する”公衆着信”という文字がぼやけていた。これで、本当に恵理香とはお別れだ。恵理香に対する気持ちとお別れだ。もう、僕は卒業しなくちゃいけない。今度は自分が後悔しない恋をしよう。電話を切った後で、後悔に暮れる恋ではなく、もっと甘い恋をしよう。もっと自分本位で、自分の気持ちに向き合った恋をしよう。

僕は携帯電話を床に置き、左手で眉を掻いた。そして、気がすむまで風の音を聞いた。はからずも激しく吹き続ける風の声を。

僕は体で学んだ。未来のことはわからない。だから、自分でやりたいと思ったことをすればいい。そうしないと、今を精一杯に生きることができない。未来のことがわからない以上、今を精一杯生きるしかない。

だから、すぐに僕は2人を呼び止めたのだ。高杉さんと土方を呼び止め、僕は土方に協力することを約束したのだ。もう、後悔はしたくない。動かない自分のせいで起こってしまった出来事に後悔はしたくない。自分が行動をして、それで何か不味いことになってもそれならば納得がつく。未来なんて、誰にもわからないんだから。それならば、今のために生きよう。せめて輝ける。そんな今のために飛ぼうじゃないか。

END

青春系小説「大学入門す!」
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