青春小説「運命とは気まぐれなモノだよ!」END

青春小説「運命とは気まぐれなモノだよ!」END

 一方で、うまく言葉を返した私は反撃に出た。まわりくどく聞いてきたことが気に入らなかったからだ。親友なんだから、素直に聞けばいいのに。心の底から燃え上がってきた。
「まだ、まだ。甘いよ、香川。会話ていうものは常に臨機応変のものだ。機会に臨んで、変化に応じる。これが話術の極意だ。だいたい、俺たちの仲だろ? 香川、隠さず正攻法で来い。聞きたいんだろ? 俺が琴ちゃんに対して、どの程度の感情を持っているか?」
興奮したせいか、少々語気が強くなってしまった。幼少の頃の私の荒々しさを知っている香川は、少しひるんだようだ。香川は黙り、とぼけた顔を見せた。
「だいたい、知ってどうするつもりだ。お前は会ったこともないだろう、琴ちゃんに」
だが、この一言が、重そうな香川の口を割ったのだ。ためらいをかなぐり捨てて、香川は堰を切った水のようにしゃべり始めた。
「心配だった。俺とお前の仲が」
香川の表情が一瞬照れを見せた。しかし、私にはそこから先の表情の機微がわからなくなった。香川の言葉が意外だったからかもしれない。
「お前と、俺。組んできた時間は長い。それに濃いよ。俺たちは卵の1パックみたいに数えられることもあった。でも、お前はいつも、俺より先に行っている。先に行って手を伸ばして、助けてくれることが多かった。だけど、ほら、昔、お前が河合さんのことが好きになったとき、お前は自分のこと、いや、正しくいえば、河合さんのことしか考えないようになっていた。あのとき、俺はすごく淋しかった。なんか、すごく、恐くなったよ。置いてけぼりを喰らった子供の気分だったよ。また、そんな風になるのかなって思っただけだ。もし、そうなるなら、心の準備がいるだろう?」
悲鳴のようだった。それでも、最後には笑いがうっすりと浮かんでいた。私はその言葉にショックを受けていた。私は香川のことをよくわかっているつもりだった。理解しきっているつもりだった。それなのに、香川がこんなことを考えているとは夢にも思わなかったからだ。想像したこともなかった。今言われたことにより、香川が闇の中に遠ざかっていったような気がした。二人の前にある料理はその緊迫さから、色や臭いを主張することを遠慮している。黙ったまま、黙ったままだ。
沈黙は続いた。見つめあいも続いた。しかし、私の動揺はそんなに長く続かなかった。だんだんと頭の中が整理されてきたのだ。だから、先ほどまでの怒りに満ちていた顔を、ただ不平そうなだけの顔に整形してゆっくりと語りだした。
「香川、くだらないよ。俺たちは何回お互いのことを助け合ったんだ? 何回、こうやって二人して、いろいろなことを話したんだ? わかってるだろう、俺、北方 弘基のことを。確かに、俺は夢中になりやすい。周りなんか、まったく気にならなくなる。だけど、なあ。お前。俺はいつも、今日という状態に何かを少し足すためだけに、人生を気張って、生活しているんだ。古くて、例え腐っているものでも、ぜったいに捨てない。今に何かを足すだけなんだ、俺の生き方は。だから、根本の俺は絶対変わらない。もちろん、根本の俺を作っていったお前との関係も、当然・・・・・」
私は最後の言葉を消した。もう、いらなかったからだ。香川の目が、私の消した言葉を埋めているからだ。香川の目は黄色に輝いていた。香川の目の輝きは闇をかき消し、私の前にふたたび、いつもの香川の全貌を明らかにさせた。喫茶店の、言葉の消えた空間。今では、いつものように何の気まずさもない。張りつめた空気など、塵ほども存在しない。
私はスプーンを握り直した。香川もふたたび、フォークを持ち直した。
「さあ、食うか、ついてない日の最後の食事だ」
私の声は少しだけうらがえっていた。私はその声のうらがえりが、香川に気づかれていないことを祈った。
「ああそうだな。しかし、本当についてなかったな、お前の一日は」
香川も声がいつもと違った。思わず、私は苦笑をしてしまう。
「はあ? それはそれはどうも。認めてくれて」
「よし、じゃあ、今日の締めに、この唐辛子で辛いもの我慢大会をしよう。どうだ、やるか?」
私は、赤々としていて、いかにも辛そうな唐辛子を見て、挑戦したくはなかった。だが、香川の手によって、強引に唐辛子はスプーンに乗せられた。そのスプーンは私の口行きなのだが。
「ちゃんと、噛めよ。いいな」
香川の注意にうなずき、二人して、ハグっと噛み込んだ。予想外に辛くない。赤いだけの見かけ倒しだったらしい。
「全然、辛くないなあ。この唐辛子、色だけだな。ところで、本当に琴ちゃんという娘について、お前どう思っているんだ、弘」
私は香川に真実の行方を告げようと思った。が、突然、辛さが、口の中で、大暴れしだした。辛い、辛い。舌がびりびり。舌に熱いものが乗っているような感じがする。それは、テーブル向こうの香川の口の中でも起こっているらしい。コップの水で、舌をゆすいでいる。一方、私はもう耐えられなくなっていた。トイレにかけ込んで、舌に残っている唐辛子のかすを口から出した。すぐに香川も口をゆすぎにやってきた。二人して、蛇口から流れる勢いの強い水で舌を洗う。
一段落して、二人は顔を見合わせて笑った。高らかに。周囲になぞ、まったく、気を配らず、私達だけの世界に入り込んで、二人並んで、大いに笑った。屈託のない笑顔。私のも、香川のも互いに見たことだろう。

その日、二人は再会を約して別れた。別れるときに吹いていた風はさわやかだった。夏の終わりに、やがては来るであろう秋風が吹いているようだった。

その日は、こうして終わりを告げた。最初は、ついていない日だと思っていた。でも、全然違った。香川のことがよりいっそうわかって、香川により近づけて、本当はついている日だったのだ。
運命は気まぐれなもので、いつ、どこで、何を与えてくれるのかまったくわからない。事実、その日を境に、以前よりも香川に近づくことができた。そのことは、今を、そして未来を明るく照らす幸運の星だろう。その幸運をつかめた私は、やっぱり、最高の幸運児だ。もちろん、あの日は、けして、ついていない日なんかではない。