青春小説「運命とは気まぐれなモノだよ!」1

青春小説「運命とは気まぐれなモノだよ!」

この青春小説は青春時代に書いた小説です。内容は、若い主人公の一日を描写しながら、その親友との心の交流を描いていきます。友情物ですね。展開は少ないですが、読んでもらった方からは良いな!って評価をいただきました。個人的には、そこまでではないですが。

初期のバージョンからいささか手を加えて編集しました。

青春小説「運命とは気まぐれなモノだよ!」1

 ベルのついた木製のドアがゆっくり開いた。ベルの音ともに、外から腕を組んだカップルが入ってくる。夏だというのに、春っぽい感じだ。
「いらっしゃいませ。何名様ですか」
男の方の客が二本の指を立てた。
「二名様ですね。こちらにどうぞ」
ウエイトレスは、そそくさと、私たちの右隣のテーブルに彼らを案内した。視線を返して、私は前に座っている香川の方に向けた。香川も、ほぼ同時にこっちの方に顔を向けてきた。目と目が合ってしまった。私達の場合、これで気まずいといった風にはならない。なぜなら、私と彼の関係は長く、そして、その長い期間でも比べものにならないぐらい深いつき合いをしてきたからだ。長い間の見つめあったままの沈黙など、特別なことではない。慣れっこなことだ。別に、二人が変な関係とかでもない。ただ、二人とも、なんとなく見るだけで、相手のしゃべりたいことや、状態がわかる気がするのだ。だから見つめあってしまう。それに、私の場合は相手の目を見ながら、話をするのが癖なのだ。
「しかし、今日はなんか、異様についてなかったなあ。花火は中止になるし」
私は深くうなずいた。事実、今日は朝からついていなかった。
「ホントに、ホントに。いつもなら、あなたが不幸の王子様なのに、今日は俺がそうだな」
「へー、いつも、運の良いお前がねえ。何があった?ほれ話してみなさい、タップ。お兄さんは聞いてあげるよ」
私は、幼児番組の一コマを演じきっている香川にあわせて、今日の不出来な出来事について語り始めた。

やる気たっぷりなベルの音が私の部屋で鳴る。私は受話器を取って、耳を傾けた。
「もしもし。高麗軒ですが、弘基君いらっしゃいますでしょうか」
私は不思議に思った。なぜ、こんな朝早くにバイト先から電話がかかってくるのだろうか?どう考えても、不条理だ。なにか、緊急の伝言だろうか。それとも、首ということだろうか。
「はい、私ですけど」
「あの、今日9時からの予定で入ってませんか。ここの日程表にはそう書いてあるんですが」
「へ、今日はたしか休みのはずですよ。今日は」
「いや、入ってるんです。来れるんでしたら、早く来てもらえませんか」
「いえ、その、今日出かける用があるんですよ。だから、行けないんです。すいません。でも、たしかに、今日は入れてないですよ。私は今日は最初から予定を入れてましたから」
「そうですか、じゃ、すいません。今忙しいんで。また後でこっちの予定を見直してからもう一度、電話をかけます」
切れた電話の受話器をポンと軽く置いて、私は、自分が間違えるはずがない、むこうのミスだな、と思った。そして、電話がかかってくるまでやっていた掃除という生活上大事な事業の方に戻っていった。掃除機のやかましささえも、外から聞こえる蝉の鳴き声には負けている。それほど、蝉の鳴き声は煩わしかった。
掃除を終え、やれ、やれ、と一汗拭っていると、また電話がけたたましく鳴った。はい、はい、はいと、声を電話の方にかけながら、受話器の耳の部分を耳に当てる。また、バイト先からだった。
「もしもし、弘基君。やっぱり、君入っているよ。ここの君が出してくれた予定表に書いてあるもの」
そんなはずはないと思った。が、その瞬間。なんとはなく、予定表に丸印を書き込んでいる7月の自分が思い出された。顔面蒼白。これはまずい。向こうには物質的証拠がある。そのために、とぼけることもできない。さらに、自分に心当たりもある。あせりと痛恨の悔恨で、良心の塊、小心者になっていた自分には、どうもこうも言い訳できない。誠実そうに、謝り続けるしかない。
「え、ホントですか。すいません。それなら、こちらのミスです」
この時初めて、謝るときに、つい、電話越しで相手に見えもしないのに頭を下げてしまう人の気持ちがはっきりとわかった。