青春小説「運命とは気まぐれなモノだよ!」3

青春小説「運命とは気まぐれなモノだよ!」3

 「ははは、そりゃ、お前が悪いんじゃないか」
「いーや、運が悪いだけだ。本当に、何気なく、無意識に、その自販機を選んじゃったんだから」
私はムキになって、否定した。否定し続けた。
「でもよ、服の一件にしたって、バイトの話しにしたって、お前が悪いんじゃないんか。え、どうだ?」
言葉に詰まった私は、一度外に目をやった。そして、ツバメ返しさながらの切り返しで、香川の鼻頭を見た。香川の笑い顔は、私に自業自得という四字熟語を思い出させるのには十分だった。
「レモンティーのお客様はどちら様でしょうか」
「あ、はい、こっちです」
私はなんだかよくわからなかったが、とりあえず、このテーブルの上に載せておけばいいと思い、テーブルの上に置いてもらった。
「アイスコーヒーは少々お待ち下さい」
白いハイソックスを履いた、肌の焼けているウエイトレスはペコリとおじぎをして戻っていった。私の、どうも、と言う言葉が彼女の後を追う。
「これ、香川のだろ? ほれ」
「いや、俺はミルクティーだ。断固、俺が頼んだのはミルクティーだ」
「へ? じゃあ、これ誰の?」
「知るかよ、お前があまりにも手際よく受け取るもんだから、なんにも言えなかったんだ」
「まあ、それは知らなかったわ。あら、ごめんなさい」
私流のごまかし方だ。しかし、私と香川の長いつきあいではそんなごまかしはいらない。というより、通じない。
「たっく、お前。やっぱり、ついてないな、今日」
断固ミルクティーだ、と言っている割には、香川はおいしそうにレモンティーを飲んでいる。
「でよ、それだけなのか。ついてなかった一日ってさあ」
「それで、済むんだったらなあ・・・・・・」
香川は私の話口調が上手いせいか、それとも、珍しく、私が愚痴を吐くのが面白いのか、次の話しをすることをしきりと促した。私は、香川の顔に映っている、自業自得という言葉の魔力によって、重く閉ざしていた口をふたたび動かし始めた。もちろん、私の口は動き出したら止まらない。もともと、誰かに聞いてもらいたくて仕方ないのだから。軽やかな口は静かに回転しだした。

電車の窓からは、赤い車ばかりの恵比寿教習所が見える。電車はもう恵比寿を出て、渋谷に向かっていた。私は次の渋谷駅で開くはずのドアに寄り掛かっていた。寄り掛かりながら、時計をのぞき込んでいた。その時計は約束の時間のわずか5分前を指していた。遅れたら、やばいよな。そんなことを私の持っている電池式の電子頭脳は再確認した。でも、電車の中じゃどうしようもない。電車の中で走ったとしても意味がない。間に合うだろうという楽感と、出がけでやった支度の失敗の後悔が半分ずつ。私の非凡な頭脳を支配している。しかし、どうして、あんなにも愚かなことをしたのだろう。服を着替え忘れるなんて。そんなことは5才の子供でさえやらないだろう。後悔してもしょうがないとわかっていても、こんな時は人に言い訳しているかのように自己弁護をしてしまう。でも、頭の一方では、このスリル感がたまらない。間に合うか、間に合わないか、この一瞬が楽しいんだよな、などと考えている。自分の中で、このように考え始めると収拾がつかない。ああでもない、こうでもない。水掛け論を目の前でやられているような気分だ。不快で、わけがわからない。
けれども、また違う考えも浮かぶ。原因は実際、すべて私の中にある。私が原因だ。私の責任なのだ。自己に責任を強く押しつけ、悲劇のヒーローを演じている面も頭の一隅からひょっこり顔を出してくる。
一般的にこういう状態を、大混乱、というのだろう。
と、その時。急にドアが開いた。ドアに寄り掛かり続けていた私にはたまったものじゃなかった。よろめき、ホームに倒れ込んでしまった。一瞬、なにが起こったのか、まったく理解不可能だった。というより、渋谷に着いたという事さえも気づくのに時間がかかってしまった。周囲を見回し、渋谷駅に着いたことを認識した。そして、何もなかったかのように済ました顔をして、ゆっくりと立ち上がった。何だ、こいつ、と言わんばかりの周囲の視線を巧みにカットしながら、私は改札所まで走った。もう、時間がほとんどない。しかも、転んだことで平常心がかなり失われている。今こそ、ピンチだ。変身するしかない。私はそのために持ってきていた、ペンライトに明かりをつけた。しかし、私は当然、ウルトラマンでも、正義の味方のヒーローでも、特撮に出てくる怪人でもない。つまり、変身できるはずがない。それでも、落ちつきと楽しさを身体で表現する、いつもの自分に変化した。そして、今月の月間目標名文句である、(常に、落ちつきを、そして、笑顔を)を心の中で咆哮した。光りを我に、と言ったゲーテさながらの文句の冴えが心の中で切れ始めた。にやりと、一つ、紀子様スマイルが出てきた。出てきても、たいした意味はないんだが、それでも、微笑ができるようになったことは大きい。少しづつ、戻りつつある。