青春小説「運命とは気まぐれなモノだよ!」6

青春小説「運命とは気まぐれなモノだよ!」6

 アイスコーヒーの氷が溶け、ころんという音がした。
「そういう話しか。で、俺がこんな風にして、お前の前で、お前のアイスコーヒーを飲んでいるわけだ」
香川の手が、アイスコーヒーを持っていき、アイスコーヒーを飲んだ。カッコつけた言い回しが少しも似合わない。そんな香川がとてもおかしかった。
「まあ、そういうことかな。ごめんな、急にリリーフピッチャーみたいに呼び出して。今日、時間が空いてるって聞いていたからさ」
「まあ、いいよ。それよりも、俺を呼んだのも、お前のついてない失敗だろうな。花火も予定してたんだろう? お前の花火好きは有名だからなあ。その花火も、俺の不幸か、お前の不運でか、結局は延期だものなあ。おそらく、俺の不幸だけどな」
半ば、独り言のように、香川は自分をつぶすようなことを言った。でも、それは優しさいっぱいあふれる言葉で、私を励まそうという趣旨から出た言葉に違いない。私は嬉しかった。改めて、私はこの男の友でいられたことを感謝した。私は香川の友情の温かさで、感情むき出しになっているだろう目を、香川に見せたくなかった。見せたら、それは自分の弱さを自白しているような気がしたからだ。だから、アイスコーヒーについていたストローの入っていた袋を下にわざと落とした。そして、もぞ、もぞ、熊がどんぐりを拾うかのようにゆっくりと拾う動作をした。遠くから、白いソックスをはいた、健康そうに焼けている足が近づいてきた。どうやら、ウエイトレスがやってきたようだ。上で、なにやら、ウエイトレスが早口で口上を述べ、それに対する香川の神妙な声が聞こえた。テーブルの上にボンと音がした。私は遠ざかる白いソックスをこの目で確認した。もう、視界はぼやけていなかったので、私は潜っていた机から顔を上げようと思った。
「いつまでも潜っていないで、早く出てこい」
香川の声が、私が立ち上がるよりも早かった。
「はい、はい」
立ち上がった私の前のテーブルの上には、カレーとスパゲティーが載っていた。
「ほれ、食おうぜ。カレー用のスプーンはこれだからな、ここに置くぞ」
いただきますの合掌をして、無言で私はスプーンを持った。早くも香川は、器用にスパゲティーをフォークですくい上げ、スプーンに乗せている。
「ついていないか・・・。そういえば、今日のお前、車にも引かれそうになったしなあ。二度も」
香川の顔がにやりとした。これは何かあるな、という直感が全身の気を張りつめさせた。実際、一度は銀座で救急車に引かれそうになった。でも、香川が抑えてくれたので助かった。しかし、実際に二度も引かれそうにはなっていない。そこで、ピンと、ゲゲゲの鬼太郎の頭に立つ妖気アンテナさながらに、私は思案が浮かんだ。これは私がよく使う型の巧妙なトラップだ。一度目に引かれそうになった車というのは琴ちゃんのことなのだ。車にも、という言葉で、車と琴ちゃんをかけて、私が琴ちゃんに魅かれているということを、私から言わせようとする手なのだ。掛詞を使った、巧妙な誘導尋問だ。しかし、このような話術を香川が使えるのは、昔、私が教えたからだ。自分の技が返せないほど、私は馬鹿ではない。
「ああ、あんなの。日常茶飯時さ」
何事もなかったかのように、私は言葉を投げ返した。香川は予想外の返答を被ったせいか、言葉を失い、黙り込んだ。スパゲティーを食べる手もすこしぎこちないように見える。フォークが皿に当たり、カチカチと鳴っている。
一方で、うまく言葉を返した私は反撃に出た。まわりくどく聞いてきたことが気に入らなかったからだ。親友なんだから、素直に聞けばいいのに。心の底から燃え上がってきた。
「まだ、まだ。甘いよ、香川。会話ていうものは常に臨機応変のものだ。機会に臨んで、変化に応じる。これが話術の極意だ。だいたい、俺たちの仲だろ? 香川、隠さず正攻法で来い。聞きたいんだろ? 俺が琴ちゃんに対して、どの程度の感情を持っているか?」
興奮したせいか、少々語気が強くなってしまった。幼少の頃の私の荒々しさを知っている香川は、少しひるんだようだ。香川は黙り、とぼけた顔を見せた。
「だいたい、知ってどうするつもりだ。お前は会ったこともないだろう、琴ちゃんに」
だが、この一言が、重そうな香川の口を割ったのだ。ためらいをかなぐり捨てて、香川は堰を切った水のようにしゃべり始めた。
「心配だった。俺とお前の仲が」
香川の表情が一瞬照れを見せた。しかし、私にはそこから先の表情の機微がわからなくなった。香川の言葉が意外だったからかもしれない。