山形県 蔵王に行く前の話 蔵王旅行記1

旅行記

「蔵王に行く前の話」

 12月も中頃。私は7人の優しい日本人の友人たちと、蔵王という聞いたことはあっても、どこにあるのかはまったく不明な場所に行くことになっていた。そこに行く目的は、冬スキー。冬のパウダースノーの上を、実力のない受験生が大学受験を滑るようにスイーと滑ろうというものだ。

 冬スキーというものを、私はあまり経験したことがない。春スキーというものは、5,6回ほど行ったことがあるが、冬スキーは2回ぐらいしか行ったことがない。だから、今回は異様にやる気になっていた。怠け者の私としては、実に珍しいことである。

 さて、出発の当日。私は冬スキーのために新たに揃えたピンクのスノーブーツと、ウェアー、そして、物干し竿のように長いスキー板を担いで、意気揚々と家を出た。だが、荷物というものが重いということを、私はすっかり忘れていた。地元の駅に着くまでに、汗はビッショリかくし、腕はしびれてくるし。とても旅行どころではなかった。そこで、怠け者な私は優しい七人の日本人の友人の一人に電話をかけた。

「ぷるるるー。ぷるるるー。」

足踏みが次第に荒くなる。電話がかかったら、私はスキーをキャンセルしようとしていたのだが、惜しくも電話はつながらなかった。運命の流れに逆流しようとしたが、逆らえなかった哀れな鮭。それが、その時の私だ。

 肩で息をして、人様に板を何度もぶつけながらも、私は新宿に着いた。新宿で、蔵王へ行く前に、一杯引っかけていこうということになっていたのだ。それゆえ、新宿に下車し、私は今回のスキーの幹事である友人、会津と合流した。荷物の重さのため、新宿駅のそばにある銀座ライオンという鍾乳洞のような店に入り、私たちは泡盛りだくさんのビールを頼んだ。

 乾杯という声とともに、二人は杯を重ねた。サシで呑むということが楽しかったのと、店のビールが喉に心地よかったことで、気のコロコロ変わりやすい私は、やっぱりスキーに来て良かったと思い直した。

 しかし、二人で一時間ほど呑んでいるうちに、情勢複雑怪奇な事件が起きたのだ。スキーに行くことになっている友人の一人で、高貝という男が、新宿で飲み過ぎて暴れているという連絡が入ったのだ。私たち二人、酔っぱらい特捜隊は、連絡が入ると、すぐに、高貝の収容に向かった。

 ところが、コマ劇場にいた高貝は少しも暴れることなく、ただひたすら酒の飲み過ぎからくるムカムカと闘っていた。うる星ヤツらのラムちゃんに変身して、暴れている高貝を止めようと思っていた私としては、拍子抜けしてしまい、酒につぶれている高貝の隣にへなへなと座り込んでしまった。私と一緒に呑んでいた会津も、拍子抜けしたのか、それとも、ただ酒につぶれている高貝に呆れているのか、あ然としている。

 時間が経ち、酒につぶれた高貝は意識を取り戻した。だが、ここからがヒートアップして面白くなった。やたらしゃべるのである。面白いのは、同じことを何度も繰り返し言うのである。ここはどこだーとか、俺が悪いんじゃないとか。しかし、もっと面白いことに気づいた。それは、共通の知人の名前をふると、その知人に対して毒を吐くことである。あまりの面白さに、私は、これこそ大人のおもちゃだと確信した。ただ、彼を集合場所の代々木公園まで連れていくのには、かなり骨を折った。大人のおもちゃで遊んだ代償と思えば、安いものではあるが。

 こうして事件は片がつき、私たちはスキーに行くメンツ全員に合流することができた。夜行バスに乗り込み、後は目的地への期待を、鼻提灯につめて、鼻一杯に膨らませ待つばかりである。

 さて、この後どうなることやら・・・。