山形県蔵王ホテル「ルーセントタカミヤ」へ行く 蔵王旅行記2

蔵王のホテルへ行く!!

 酔いどれから元に戻った高貝やら、私、会津を乗せたバスは道のわかりきった迷宮を行くがように道を進んでいく。その進むことの速さには感嘆の念を覚えざるを得なかった。ふと横に目をやると、隣の席に座っている、ジャンシ和歌山は、耳にMDのイヤホンをはめ、寝る体制に入っている。負けずに、私も寝ようと思い立った。

 だが、夜行バスというものはなかなか眠れない。大きな問題として、座席が狭すぎるのだ。せめて、電車の座席ぐらいのスペースがあれば、寝られるというのに。だが、文句を言っても仕方がない。とにかく、眠るのだ。私は自己催眠をかけつつ、眠りに入ろうとする。だが、イヤホンから流れてくる音楽が悪すぎた。眠るというのに、ハードロックをかけてしまったのだ。いやはや。

 一時間ぐらい経ったであろうか。眠れない私は周りを見渡し、誰か起きていないだろうかと見てみた。すると、高貝とエロ右衛門というあだ名のある友人が起きていた。ヤツらも眠れないのか、可哀想に、と思って見ていると、高貝の様子が変である。一点に視点が集まっている。これはもしやと思い、私はビニール袋を渡した。すると、高貝は私の手から、ビニール袋をひったくり、手で握っている。バス酔いで眠れないとは、私よりも哀れなヤツである。だが、そんな高貝の横のエロ右衛門はもっと可哀想である。起きていることに、つき合わされている。エロ右衛門は実にいい人だ。

 しかし、高貝は救われた。バスがサービスエリアに止まったのだ。高貝は即降りて、外の空気を肺一杯に吸い込んだ。二十分間の休憩のうちに、空気とお茶を飲み、元気を取り戻した高貝は快快とした顔を携えて、バスに再び乗り込んだ。

 けれども、高貝とエロ右衛門の苦闘は始まったばかりだった。今度は高貝が、お茶を飲み過ぎて、小便をしたくなったのだ。高速道路を走っているバスを止めて、トイレに行くのは至極難しい。高貝はこらえた。幾度となく、開きそうになる膀胱を全力でもって締めて、生理的な我慢し続けた。エロ右衛門も、それにつき合って起きている。だが、我慢にも程があった。三時五十分頃がピークであったらしく、高貝は四時になったら、本気でバスを止めるつもりになったようだ。しかも、私にバスを止めさせることを考えていたらしい。だが、美の神は高貝に、高速バスの真ん中で小便をさせることを忌み嫌ったらしく、バスをサービスエリアまで導いた。高貝の危機も去り、エロ右衛門も、私もいささかほっとした。その安心感の中、私は眠れた。眠りの世界に、美の神は、私も誘ったのだ。

 だが、三時間寝るか寝ないうちに、バスは目的地に着いた。蔵王。雪が降っている蔵王に着いたのだ。バスを降り、知らない土地を歩きながら、私は蔵王というものを実感した。

 実感。これは寒さの感覚だったと思う。手が痛み出し、心臓が押しつけられるような感覚。寒さで疲れがあふれ出てくる感覚だ。しかも、ホテルの場所がわからなくなったという、会津の絶望的なコメント。これが、蔵王という土地についての実感だった。

 見知らぬ土地に来てまで迷うとは、いかにも私らしい。だが、土地の人に道を聞き、すぐそばにホテル『ルーセントタカミヤ』という、私たちが泊まるホテルがあることを知った。そこでみんな適度に笑い、適度に話しながら、ホテルに入った。

 ホテルに入り、まずは朝食を取るということになった。もちろん、私は賛成だった。ホテルに来るときに通った道にローソンがあったので、私たち一行はそこで、朝食を買う。そして、ホテルのロビーで和気藹々と朝食を取ろうとしたのだが、フロントの人から、ロビーでの食事を禁ぜられてしまった。世の中に、こんなにも不合理なことがあってたまるか。私は一気に怒りの炎で元気を取り戻し、ホテルに復讐をしようと企んだ。

 ホテルの玄関のところで、寒そうに朝食を取るのである。客をロビーに入れないホテルなんだぞということを宣伝してやりたかったのだ。だが、こんな私の作戦も、単なる嫌がらせにしかすぎず、何もホテルには影響を与えなかったであろう。今、考えると、実に大人げない。

 さてさて、ホテルに入った私たち。この後、どうなることやら!