山形県蔵王のスキーで迷子になる-蔵王旅行記6

山形県蔵王のスキーで迷子になる-蔵王旅行記6

日ごろはねぼすけの私だが、旅行となるとなぜか目覚めがいい。不思議なくらいに丁度いい時間に目が覚めた。何にちょうど良い時間なのか。それは朝食である。

朝食。東京では口にしないご飯ではあったが、これまた旅行先では必ず食する。それも必ず、おかわりをする。気分が違うと、満腹中枢さえも違うのだろうか。首を傾げながら、私はご飯をガツガツと平らげた。おかずは、のりと、納豆と、お魚とお野菜。味噌汁を飲まなかった会津の分までいただいた。味付け海苔って、なんで、こんなに旅行先のホテルの朝ごはんで登場するのだろうか。

朝8時半。はやくもゲレンデに出た。今日はエロ右衛門も、さらに私も混ぜて、みんなで滑るとのこと。さすがにこれでは迷うまい。しかし、なんだかモヤモヤと晴れぬものがある。どんより曇った空と、妙ちくりんな不安感が私を心配がらせた。

滑り出しは好調だった。昨日の夜降った雪のせいで、スキー板は羽が生えたように軽やかに踊った。雪をけり、大地を這うように、私は滑った。パウダースノーとはよく言ったものだなっと、お得意の独り言。滑りながらだったから、舌をかんだ。スピード狂の私には、心地よいほどの風がぶち当たる。

しかし、ここで調子に乗って、スピードを出しすぎたのが最大の間違えだった。おお、ミステイク。前を行く高貝を抜こうと思い、横にそれた瞬間、私はロープにぶつかってしまい、バランスを崩した。それでも体制を整えようと、必死に滑り続けていると、私は深雪地帯に入ってしまった。

深雪はスキー板にのりやすいため、非常に滑りにくい。スキー板に、雪がのっかり重くなっていくからだ。だからといって、深雪地帯に止まっていると体が埋まってしまう。そんな深雪地帯に入ってしまった私のスキー板は、少し進むとスピードをなくしてしまった。必死になって漕ぐが、それでも前に進まない。終いには、止まってしまった。

止まると同時に、怖れていたことが起きた。体が雪に吸い込まれていったのだ。まるで、落とし穴に落ちたように、私は雪の中に埋もれてしまった。あっぷあっぷと雪に溺れていると、友人は皆、お先にと言い、先に行ってしまった。

もがけばもがくほど、深みにはまるのが、この深雪地帯だ。だが、それを知らなかった無知な私は、雪の穴から出ようと焦るばかりにもがいてしまった。そして、完全に雪の中にはまってしまった。それはすごく寒かった。

10分ぐらい経ち、やっとの思いで抜け出ると、私は友人に追いつくべく、もてるだけの速さで滑っていった。しかし、待ち合わせ場所のリフトには誰もいない。10分ぐらい待ったっていいじゃないか。瞬間、怒り狂った。だが、雪の冷気のせいで、すぐに冷静さを取り戻し、私はおそらく乗ったであろうリフトに乗り込んだ。後でわかったことだが、私が待ち合わせ場所を間違えてしまっていたのだ。もっとも、私なら平気だと思ったから、すぐに先に行ったと語っていた。それを聞いて、私は喜んで良いものか、悲しむべきものなのかと少し悩んでしまった。

友人たちが乗ったと思っていたリフトの先にも、友人たちの姿は影も形もなかった。シャアナイ。今日は一人で滑るか。私はそう思い直し、自分一人でいろいろなゲレンデをまわることにした。だが、その前に休憩をしようと思い、休憩所に寄った。

しかし、休憩所はあいにくと開いていなかった。当たり前の話だ。まだ時間が早いのだ。仕方なく、私は一本のタバコを口にした後、すぐに滑り出した。が、ひと滑りしただけで、寒さが体にしみこんできた。雪が降り始め、それも猛吹雪になったからだ。これでは凍死する。そう思った私は休憩所を探してさまよい始めた。

しかし、猛吹雪のため、視界が非常に悪い。前を行くスキーヤーでさえ、はっきりとは見えない。おかげで、どこかで道を誤ったのであろう。そのうちに、私は道で一人になってしまった。しかも、そこはリフトも動いていないところだった。遭難。私の頭には、その2字熟語が浮かびだした。遭難の恐怖から逃げるために、私は遭難で死んだ後に新聞に載る時の自分の顔について考え出した。やはり、死に顔は笑い顔でなく、恐い顔にしよう。きっと世間をにらみつけたようなシブーイ顔にしよう。私がそう心に決めたとき、大きな広場にポツンと私一人だった。

と、その時、車の走る音が聞こえた。その時だ、ピンときた。道路を歩いてホテルに戻ればいいのだ。無理にスキー板で滑っていく必要はないのだ。私はスキー板を脱ぎ、道路に出た。すると、十メートルも歩くと、私たちの滞在しているホテル、あのルーセントタカミヤが見えてきたのだ。大げさに生命の危機を感じていた私の馬鹿さ加減に、思わず、私は吹き出してしまった。

ホテル「ルーセントタカミヤ」の部屋に戻り、私は友人の携帯に電話をした。そこでやっと友人に合流できた。だが、怠け者スキーヤーの私は、友人と一回滑り終えると、もうホテル「ルーセントタカミヤ」が恋しくなっていた。そして、ホテル「ルーセントタカミヤ」に帰り、風呂に入り、ゆっくりぐっすりと眠りについた。雪の中での永眠ではなく、ホテルの暖房にくるまれたままの仮眠で済んだ。まあ、とにかく無事で良かった、良かった。そう思いながらも、山形県蔵王のルーセントタカミヤの室内で、スキーもせず、昼からごろごろしている自分に首を傾げる私だった。

さてさて、この後どうなることやら・・・。