山形県蔵王でイビキが止まった秘密-蔵王旅行記8

山形県蔵王でイビキが止まった秘密-蔵王旅行記8

徹夜同然の朝はひどいものだった。眠気と日光からくる起きろ起きろ光線とで、頭が混線。朝ご飯など喉を通るどころではなかった。それゆえ、リンゴジュースでもって、納豆にまみれた白米を流し込んだ。しかし、味は惨憺たるもので、余計にものを食べる気がしなくなってしまった。さらにさっきよりも悪いのは、吐き気が体中にまわってきてしまったのだ。

眠気、吐き気。睡眠欲と食欲という人間の三大欲の内、二つを奪われた私はもう生ける屍だった。屍は倒れるしかない。しかし、部屋はチェックアウトをしなければいけないので、寝ているわけにはいかない。そこで、私は高貝を引き連れ、ロビーでひと眠りすることにした。他のみんなはスキーに行ったのだが。

怠け者スキーヤーの私は、ロビーのソファーを大きく占拠し、そこに座りながら寝ることにした。高貝は眠気が去ったようで、私の前で、新聞を読み始めた。高貝って勉強家だなー、と感心していると、目をつぶる最期の一瞬で、それが誤解であることに気づいた。高貝の読んでいたのは、スポーツ新聞だったからだ。

疲れているときに眠ると、私のいびきは、ものすごくデカイ。戦艦大和の砲台が弾を発射する音など比べものなどならないくらいだ。わざとやっているんじゃないか?と疑われることが何度もあったほど。そして、当然のように、その大騒音のいびきは、このホテル、ルーセントタカミヤの優雅なロビーでも響きわたった。ぐごー、ぐごー。高貝はあまりのいびきに、ホテルのフロントの人から文句を言われるのではないかと思い、何度となく私を起こそうと試みたそうだ。しかし、本能欲の強い私はいっこうに起きなかった。むしろ、起こそうとする度に、いびきは高くなる。焦った高貝は、自分の持っていた缶コーヒーを私の鼻に流し込もうとしたらしい。だが、さすがに天使のような私の寝顔を見ると、それもできなかったらしく、他人のふりを決め込んだらしい。

二時間後。いっこうに私のいびきは鳴り止む様子がない。しかし、変化があった。十代後半の若い娘たちが、私の後ろのソファーに腰をかけたとき。途端に、私のいびきは静かになったのだ。まるで、テレビのスイッチを切ったように、私は静かになったのだ。そんな様子を見ていた高貝は、私に感心も、呆れもしていたそうだ。私なりにこのことを解説すると、生来の気品のためであろう。紳士である私の本能というヤツだ。ただ、話を聞いた他の仲間は、お前の女好きの本能がそうさせたんだろっと主張していた。

さらに、女の子が去ってから一時間。女の子たちがいなくなると、すぐに私のいびきは高くなった。だが、今度は小さな女の子が、私の後ろに座った。と、途端にやっぱり、いびきは小さくなったそうだ。やっぱり、私は女の子に弱いのだろうか。

眠りから目覚め、昼食をとると、会津たちは帰ってきた。そして、私に、おはよーと声をかけた。元気になった私も、おはよーを返した。ふふふっと笑う仲間たち。私も負けずに、ゲラゲラ笑う。すごく幸福だった。

最後に風呂に入り、露天風呂の写真を撮り、満足した顔で、私は蔵王を去った。ホテルルーセントタカミヤと別れを告げた。夜行バスは雪をはじき、風を切り、東京駅に向かう。帰りは、高貝のおしっこ漏れそう騒動もなく、そして、バス酔いすることもなく。ひんやりした雪の風や、無様な格好で転んでは笑うゲレンデの花たち。それら全てが、幻想であったかのように、夜行バスは帰り道をただひたすらに急いでいた。ただし、猫バスほどのスピードではなく。

ありがとう。みんな。また、行こうね!!→15年以上経過したが、行ってませんね(笑)